23.カクシゴト ページ23
和「この前はどうも」
…ホテルから家に帰った朝。
部屋の鍵を開けようとした私の背後から声がした。
「…………どうも。」
声の主が誰であるかなんて振り返らなくてもすぐに分かる。
鍵をトートバックに入れ、意を決して彼の方を向く。
目が合って、…ふ。と笑う。薄い唇。
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…隣人、二宮和也。
ぺらぺらのTシャツの袖から白くて華奢な腕がすらりと伸びている。
彼が立つドア。の、奥にある部屋。
そこに足を踏み入れてしまった“この前”の事は
なかったことにしてしまいたい。
もう残っていないはずの甘ったるい香水と煙草の匂いを思い出しただけで頭がクラクラ揺れる。
会釈をしてそのまま自分の部屋に入ろうとした。
‥‥‥それを、彼の。
白くて華奢な腕が阻止する。
「え…」
グイ、と引っ張られた私の腕。
思わず振り返り、二宮さんと視線が交わる。
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和「朝帰り？化粧崩れてるよ」
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嫌味たっぷりな笑顔。
腹が立ち、わざと大袈裟に腕を振り払う。
「……二宮さんに。関係ないです」
不満げに眉を歪める表情。
和「この前はあんなにガツガツと誘ってきたくせに、今日はそんなに冷たいんだ？」
「…あれは…」
和「うんあれは翔ちゃんのこと聞くためだったもんね？」
「‥‥‥‥‥‥なんですか」
和「べつに？」
ああもう…。全く掴めない。
この人は苦手だ。
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ふ、と。昨日の相葉さんのことを思い出す。
相葉さんはきっと
翔に私の浮気を教えたから、翔はそのショックで自ら命を絶ったんだと思っている。
…でもきっと、そうじゃない。
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「…翔は、死んでないって…」
和「うん？」
「翔は死んでないって、最初に会った時貴方言ってたのに
私に教えてくれたのは“自ら死んでいない”ことの理由でしたよね」
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「“死んでない”ことの理由ではなくて」
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“結婚式を挙げようとしていた人が自ら命を絶つはずがない。”
そんなの、私にも分かってる。
死ぬわけがない。
翔が、あの朝にディナーの約束をしてくれた翔が。自ら死を選ぶわけがない……。
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「二宮さん。本当はもっとなにか知ってるんでしょう？」
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なんて。
私が聞いたところできっとこの男は
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和「さあ？…なんのこと？」
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そう、薄く、悪魔みたいに微笑むんだ。
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作者名：星雪 x他1人 | 作成日時：2020年5月8日 1時
