鬼が出るか蛇が出るか (ページ3)

今日:4 hit、昨日:0 hit、合計:13,081 hit

03.お迎えページ3

・

・

「今日、大野さんと会うことになってるんです。」

雅「大野さんって…、あの時の電話の方だよね？」

「そうです、その人。」

・

大野さんとは、

あの日、翔の報告をしてくれた日以来久しぶりに会う。

・

以前は私と翔の家にとても頻繁に遊びに来てくれた。

翔の部屋から、高校時代の2人の写真が出てきて

ロン毛で茶髪な翔と、金髪をツンツンに立てた大野さんが
制服を着崩して、こちらに向かってガン飛ばした顔をして写っていて

それを見て、3人で爆笑したのを覚えている。

そんな大野さんも、今ではスーツを着たサラリーマンだ。

・

・

「大野さんが、今日仕事終わりに、ここに迎えに来てくれるって。」

雅「そっか。じゃあ今日は迎えが来たら、あがっていいからね。」

「すみません…ありがとうございます。」

・

・

「今日、会う？」と言ったのは

大野さんの方からだった。

特に用はないことは多分、お互いに分かっている。

・

ただ、今の感情を、大切な人を失った悲しみを
分かってあげられるのは、その状況になっている人だけだ。

本当のことを言うと、今は外にも出たくないし、仕事がなければ誰とも話す気分じゃない。

・

だけど大野さんに誘って貰った時は、
自然と会う気になったんだ。

・

・

大野さんが迎えに来てくれたのは、

日も沈みかけた、6時頃だった。

・

裏で洗い物をしていた私は、相葉さんが「Aちゃん！」って私を呼ぶ声で、表に出た。

雅「お迎え、きたよ。」

智「久しぶり。」

入り口に立った、数週間ぶりの大野さん。

袖を折ったスーツの白シャツは、

夕陽を吸い込んでオレンジ色に輝いて

大野さんが開けたドアの隙間から

夏の匂いが少し混じった風が、私の髪をなびかせた。

・

「お久しぶりです」

雅「洗い物そのままでいいから、着替えておいで。」

相葉さんの優しい声。

私はお言葉に甘えて、帰る準備をした。

・

数週間前まで、大野さんが立っていたその場所にいた翔を思い出した。

最後に来てくれたのは、春になりたてで

日の光が、お店を包み込んで

目尻に皺を寄せて「お疲れ様」って私に笑う翔を

キラキラと照らしていたっけ。

・