赤いアネモネ ページ1
卒業式の前日。僕は三木先輩の下駄箱に、１輪の花を入れた。
園芸部で育てた、真っ赤なアネモネ。
「あ、春！アブラムシがお前の花についてるんだけど！」
「え？！」
感傷に浸る間もなく、慌てて走ってきた同級生のあとをついていく。
走っていく途中で、先輩の姿がちらりと視界に入る。
「あ、え、先輩？！」
「春！先輩はあとにしろ！」
立ち止まりかけて、同級生に腕を捕まれてしまった。そのままビニールハウスへ連行される。
──ん、はるくーん
「春くん、まだここにいる？」
気がつくと日は暮れ、目の前には苦笑いを浮かべた部長がたっていた。
「あ、はい」
慌てて頷くと、部長は目を細めて鍵を机に置く。
「じゃあ、鍵よろしくね」
僕はしばらくビニールハウスのなかで花を眺めていた。
「明日、かぁ」
卒業式が終わったら、もう三木先輩は学校に来ない。もしかしたら、もう一生会えないかも。
「明日は泣く自信あるよ」
そばにあった花に話しかけて、部室から出る。
「──これで、第70回卒業式を終わります」
教頭先生の言葉が頭のなかをループする。
あぁ、終わっちゃったんだなぁ。
さよなら、三木先輩。
誰もいないビニールハウスのなかで、哀愁に浸っていると、不意に扉が開く音がした。
「春ってやつはいるか？」
自分の名前を呼ばれて、振り向くと息を切らした三木先輩が立っていた。
「三木、先輩？！」
慌てて叫ぶと三木先輩はずんずんと近づいてくる。
「この花入れたの、お前だろ？」
なんで、知ってるんだろう。
三木先輩の手には僕の入れたアネモネがあった。
「中尾に聞いた。そうしたら、こんなことは春しかやらないって断言してたぜ」
中尾──部長の名字だ。
部長のことだから、きっと花言葉も教えたのかな。
「なかなかロマンチックなことするやつだな。ちゃんと口で言わないのか？」
やっぱり、花言葉も知ってるんだ！
「言ったら、返事はどうなりますか？」
先輩の顔を見られなくて、うつむいて尋ねる。
引かれてる、かな。
「言われなきゃわからないな」
ということは、可能性は０じゃないんだ。多分
覚悟を決めて、顔をあげる。
「先輩、受け取ってください！」
近くにあった赤いアネモネをもう一本摘んで、先輩に渡す。言葉で、なんて絶対に無理だ。
「お前、素直じゃないなぁ。
そんなところも好きだけど」
え──？
赤いアネモネの花言葉は
「君を愛す」
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作者名：檸檬 | 作成日時：2017年8月16日 19時
