おばば様の感謝の言葉 ページ14
だんだん水木さんの中で何かを思い出しつつあるのか、目玉の兄さんにあった時よりあまり驚かず。私の言葉に少し怪訝そうな顔ではあるが、まぁ仕方ないというふうに部屋に入る。
「水木殿、」
その言葉に、私も水木さんも背筋が伸びる感覚があった。その時、私は嫌な予感がした。何か悪い言葉でも吐くつもりだろうか。砂でもかけるつもりじゃ。嫌な妄想が広がるが、真剣な顔をしていたおばばの顔が、ふっと柔らかくなり。
「記憶を失い、以前の事は覚えていないと聞く。じゃが、今あんたに言っておきたい。親父殿とAを支えてくれてありがとうなぁ」
その言葉に、私も水木さんもふぅ、と気の抜ける感じがした。水木さんは、不思議そうにも後頭部を手で掻きながら照れ臭そうにしてきた。
「そんな、俺は、何もしてないですし」
「じゃが、わしはお主に恩を感じておる。本当にありがとうな」
「いえ、」
「さて、わしはお暇するとするかのう」
言い終わったおばばは、よっこらせと立ち上がって玄関に向かって行った。私も立ち上がって、後を追う。下駄を履くおばばを見届け、そしてこちらに向き直ったあと。
「じゃあ、わしは帰るが。また来るからよろしくな！」
『えぇ、いつでもお待ちしておりますよ』
「砂かけ、今日はありがとうな」
兄さんも、トコトコとやってきて、おばばに挨拶をしていた。おばばも、嬉しそうにして帰っていく。
だが、急に戻ってきて、私の頬に手を置いて。私は驚きながらおばばと呼ぼうとしたが。
「A、しっかり生きるのじゃぞ」
『おばば･･････。うん、ありがとう』
涙が溢れそうだったが、何とか唇をかみしめて頷いた。おばばも満足そうにして、今度こそ戻ってきた一反木綿に乗って去っていく後ろ姿を見届けてから。
「確かに、Aさんの言う通り、いい妖怪もいるもんだな」
腕を組んで私を見る水木さんに、私は少し笑って言った。
『えぇ、もちろんいい妖怪もいますよ』
「てか一つ気になったこと言っていいか？」
『え？』
水木さんはうーんっと項垂れてから、私の顔を見て聞いてきた。
「俺って記憶ないのか？」
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作者名：華紅薇 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/maasasr/
作成日時：2023年12月19日 15時
