最愛のあなたと【2j3j】【knmc】 (ページ9)

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◇9. 冷たい幕開けページ9

……バシャッ！

夢の中に沈んでいた意識が浮上する。

あまりの冷たさに
悲鳴をあげそうになったが、
声がでない。

ただ、頭がびっしょりと
濡れている感覚がする。

冬に冷水を浴びせられて
起きた初めての朝は
たしか…12歳の誕生日のときだった。

目の前に怖い顔をした
バケツを抱えた
女性が立っている。

──私の実の母だ。

「…化け物、仕事の時間よ。」

…声を出すことは残念ながら
難しい状況にあるので、
私は無言で頷く。

私の返事を確認すると、
母は乱暴に私の小屋の
ドアを閉め、出ていった。

小さな、私専用の小屋を見渡す。

(あぁ、時が戻ったのかなぁ)

呆然と他人事のように実感した。

あの冷水を浴びる感覚も、
廃れた私の小屋も、
私を恐れる母の姿も。

どれも覚えのあるものだ。

ここは異能のある世界だ。
時戻り、という現象が
起きてもおかしくはない。

(…でも誰が時を戻したのかな？)

異能には制限や代償がつきまとう。
規模の大きな異能なら尚更だ。

しかも私の記憶は残し、
世界全体の時間が戻っている。

それほど面倒で大きな異能を
行使したのはどうして？

“誰”が、“何”のために？

(そんなことは想像もつかないけど。)

＿＿刀也さん。

彼は…元気にしてるかな。

私が彼に出会ったのは
ちょうど今から１年後、
13歳の誕生日のとき。

(１年後には、刀也さんに会える)

彼への想いは時が戻ろうと
変わっていなかった。

彼の不幸を願った癖に、
私は身勝手にも
私の幸せのために彼を欲していた。