形見話 (ページ9)

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それから、福良はAの気が済むまで話を聞き続けた。
時に笑い、涙しながら耳を傾ける。
小学校からの親友だった事も。
中学生で大喧嘩した事も。
高校生で脳に腫瘍が見付かった事も。
あの日の事も。
話し終える頃には、Aの目からは大粒の涙が流れ落ち、机を濡らしていた。
｢……っ以上です｣
｢……｣
福良は無言で身を乗り出し、Aの頬に手を添える。
｢…………｣
拭っても拭っても止まらない涙に何を思ったか、そのままAに唇を重ねた。
｢……ふくら、さん……？｣
大きく揺れる瞳からは、未だに涙が流れている。
それを見た福良は苦笑した。
｢……やっぱり俺じゃ、駄目かぁ……｣
｢っ……どういう、意味ですか｣
｢……俺も、Aが好きだよ｣
一瞬、呼吸が止まる。
優しく細められた眼鏡の奥の瞳から、目が離せなくなる。
｢蒼井さんの代わりに、何て思わないから。俺の事好きになれ何て言わないから。……俺が、Aを好きな事は覚えていてほしい｣
名残惜しそうに離れると、福良は会議室を出て行った。
｢……｣
1人、胸を抑える。
｢……ずるいよ、そんなの……｣
あんなの言い逃げだ。
キスまでしておいて、返事を聞かない何て。
あんな顔で見る何て。
｢……わるい人｣
早くなる鼓動に見ないふりをして、深呼吸をしてから席を立った。