. ページ10
.
地下にある阿部の自室。
冷静になり始めた渡辺の膝からお嬢を奪い、そのまま連れてきた。
上にも阿部の部屋はあるのだが、幹部と言えども、誰彼構わず聞いてもいいような話でもないので、解剖用の地下の自室で。
「はい、どうぞ」
コバルトブルーのマグカップには温かいココア。
フーフーしてね、と阿部が手渡してくれる。
「ありがとう」
椅子もないので、お嬢は診察台の上に座る。
阿部は手頃なスーツケースを引っ張り出して、ブランブランと脚を余らせているお嬢に乗せるように言った。
阿部の忠告通りにフーフーしながら、ココアを飲むお嬢を横目に彼は思考を巡らす。
が、端的に聞いた方がいいだろう、と直球で聞いた。
「Aお嬢、最近いやな夢見るの？」
ココアを飲む手が止まる。
阿部はわざとお嬢の顔を見ないようにして、目の前の壁に貼ってある人体図を見つめる。
「ねこちゃんが出ると、わるい夢なの。
しょうたがいなくなったり、まだお家にだてがいるのに燃えちゃったり、……あと、叔母さんも出てくる」
不吉な夢の前兆。
それが、先程のねこなのだ。
「百合組が大好きなんだね」
「うん、だからいなくなるのこわい」
「……大切な人が亡くなる夢ってね、長生きする前兆なんだって。だから、お嬢の夢のおかげで2人とも長生きするよ」
迷信かもしれない。
それでも、信じるくらいの気休めは良いだろう。
「そうなの、？」
「そうだよ」
お嬢の声に見飽きた人体の内部から目を離す。
「叔母さんはね、わかんない、覚えてないの、いやだなーって思うだけ」
力の無い瞳、それでも光を灯している。
3年前に、この家に来た、あの虚ろで真っ黒な目よりずっとずっとマシだ。
「分かった、無理しなくていいよ」
＿＿＿＿＿覚えてない方が幾分か楽だよ、Aお嬢。
照が血眼で君を探し出して、地獄から助け出したことなんて知らなくていいんだよ。
お嬢、どうか思い出さないで、
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1663人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
霞(プロフ) - takkimakkiさん» 嬉しいコメントありがとうございます！これからも素敵な百合組お届けできるように頑張ります！ (2023年1月2日 23時) (
レス) id: 15ecf1a3d4 (このIDを非表示/違反報告)
霞(プロフ) - まなみんさん» コメントありがとうございます！励みになります( ¨̮ ) (2023年1月2日 23時) (レス) @page30 id: 15ecf1a3d4 (このIDを非表示/違反報告)
takkimakki(プロフ) - すごく好きなお話です。ころからも楽しみにしています！！百合組、素敵です。 (2022年12月29日 10時) (レス) @page34 id: ff744b84c3 (このIDを非表示/違反報告)
まなみん(プロフ) - 続きが気になります！無理せず更新頑張って下さい！ (2022年12月11日 8時) (レス) id: 5b5d40fc7f (このIDを非表示/違反報告)
霞(プロフ) - 雪姫さん» ありがとうございます！マイペースですが、更新頑張ります。 (2022年12月5日 0時) (レス) id: 15ecf1a3d4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：霞 | 作成日時：2022年11月30日 1時
