Last Chance.【白膠木簓】 (ページ1)

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全身が熱くなってから、一気に冷めていく感覚がした。

椅子に座っているはずなのに、自分は今何をしているのか分からない。体がふらふらと揺れる。

「Aさん？大丈夫ですか？」

若いADさんの明るい声ではっと我に返る。
ふっとそちらを見ると、彼も私の手元を見た。

「あぁ、白膠木簓の熱愛報道ですか？いやぁーやっとって感じですねぇ」

にやけながら彼が言う。
彼にとってはただの世間話になるんだろう。
私は何も返さず、不純な週刊誌の表紙を見つめる。

「では、時間になりましたら移動お願いしますね」

からっと笑って彼は去っていった。
私も彼のように笑って、仕事の頭に切り替えないといけないのに。何も、出来ない。

でかでかと目立つフォントと色で掲げられている、あの人の熱愛報道。

震える手でページを繰って、詳細を教えてくれる文を指でなぞる。

そこでぱたりと落ちる大きな水滴。

濡らしたのは、よく見慣れた顔と装いと仕草をした私の恋人。よく写るその写真。隣は恋人の私ではなく、違う女性。それに清純で綺麗で有名な女優。

私を、一番解ってくれる人だった。彼の前だけではただのAで居られた。

そんな彼に裏切られるなんて。

スマホを取り出して、連絡ツールを開く。
一番上の名前をタップして、

＂週刊誌見た。別れて。＂

とだけ送ると、彼に関わるもの全て消した。

もう二度と、恋なんてしない。男なんて、信じない。

漫才師も、大阪も、日本も、大嫌い。