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『零さんは、私の幸せを奪うの?』
涙に濡れた顔、しかし凛とした瞳に、捕まえようと上げた手を止めた。
幼馴染、妹、そんな関係。
歪んだ家庭に生まれた彼奴_Aは、出会った頃は中々に癖のある子供だった。
しかし歳を重ねるにつれて、どんどん大人になっていって。
そして、久しぶりに会った時、Aはとんでもない事を頼み込んで来た。
『…零さん』
俺の事は零兄と呼んでいたのに、いつの間に大人になったと嬉しくなっているうちに
『お願い、私と結婚してください』
へらついた顔でもない真剣そのものの顔で、Aは俺に求婚した。
その顔で、奴は俺を好きでは無い事、何か裏があることを察した。それから週三くらいのペースで奴は俺の元に来るようになった。
___
彼奴に対して、負の感情は無かった。
寧ろ、幼い頃から癒しとして見てきたと思う。
だが、こうして求婚しに来る彼奴は見ていて嫌だった。
俺のことが好きでは無いくせに、あんな顔でやって来るから。
それなのに、半端に愛想なんてものを覚え俺や他の男に接している。
お前が知っている男は俺だけだろと、何度独占欲が心を渦巻いたことか。
きっと、俺はAに特別な思い入れがある。
幼馴染に、妹に、向けるものでないものが。
___
そんな気持ちに薄々感付き始めた頃だった。
Aは赤井と仲良くなり、俺は上層部に婚約者を斡旋された。
婚約者は警察学校時代の同級生。
よく、俺たちに絡んできていた西条瑠香。
すぐ断ろうとしたのだが、彼女自身名家の出で、その上層部に父がいるときた。何度も考え直せと言われた。
それでも断っていたら、今度は西条本人が俺へ説得に来たようだ。
「私と結婚すれば、難なく出世できるわ!そこら辺の女ではしてあげられない事を、私は零くんにしてあげられる!」
俺は誰かの力で出世したい訳じゃない。
冷めた目で彼女を見れば、憤って赤くなり、と思えば不気味な程に口角を上げて微笑んだ。
____
「零くん、何してたの?…Aちゃんが、走っていったようにも見えたけど」
意地の悪い笑みを見せながら、俺の首へ手を回してくる。
「…仕事の話は大目に見ると言ったのは誰だ」
「……ふふ、忘れてると思ったのよ」
そして彼女は甘ったるい声で
「…今度二人で仲良くしてたら、あの女を酷い目に遭わせるって。ね?」
…大丈夫、A。また俺が、守るから。
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ウミ(プロフ) - やばい。感情移入しすぎて泣いてしもた。 (2021年7月18日 8時) (レス) id: a500a044fa (このIDを非表示/違反報告)
まな(プロフ) - !!!( ゚д゚)ハッ!!!!続きが気になります……!! (2020年12月22日 13時) (レス) id: b4debc2124 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蘇澳 | 作成日時:2020年10月29日 23時