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「A、」
耳に馴染む大好きな声が。
ふっと振り向くとやっぱりそれは。
「風邪を引くぞ、誰を待っているのかは知らんが」
少しトーンが落ちた声に何故だろうと見詰めていると、ふわりと香る彼の香り。
零さんの腕が私の首に回って温かくなる。マフラーだ。そのまままた後ろに腕が回って抱き締められているみたい。
「貸してやる」
『…零さん、心配しすぎ』
そして私は鞄を漁ると、もわもわのそれを取り出す。
「お前、それ」
『んふふ、私も持ってたの』
私のは被るタイプ、ネックウォーマー。
『ほら、じっとしてて。零さんに風邪引かれる方が困る』
それに零さんは呆れたように笑うと、大人しく目を閉じた。
私はウォーマーの口を広げるとそのまま零さんの頭に被せて、首まで下げる。
「うゎっぷ…、お前なぁ…」
『ふふふっ、髪ぼさぼさ』
「誰のせいだ」
『私でーす』
零さんのさらさらの金糸に触れて、梳かしてあげる。後ろ、横、そして前。じっと見るために顔を近づけていたのに今更気付いて、恥ずかしくなる。
「……A…」
悲しそうに、そう呟いたのを逃さず、彼を見る。
次いでぱしと音を立てて掴まれた私の両腕。
『……零、さん…』
掴まれたままその冷たい頬を包んだ。一瞬見開かれたその青い瞳が、悲しげに揺れる。
そして、ちゅ、と音を立てて私の両手首に口付けた。
『…ぁ、』
じっとりと熱が伝わる程濡れた零さんの瞳と目が合う。
きっと私の目もそんな状態だろう。
「…A、」
掠れた声が私の名を紡いで、近付く気配に瞳を閉じる。
いつの間にか両手の縛りは消えていて、その手は私の後頭部に回っている。
全てがスローモーションになっていたその時。
「Aちゃーん、お待たせー!」
かなり後ろからの甲高い声が耳を劈く。
その声に零さんがぴくりと反応して、近付いていた距離が一気に元通り。
しかし、ふと右の耳へ零さんの低い声が。
「…マフラー、Aにやる。だからこれ俺に頂戴」
驚いて零さんを見ると、悪戯げに微笑む彼。
『…ん、あげる…』
そう言ってあげれば彼は柔らかく笑んで、私の前髪を避けてキスをして、何事も無かったように去っていった。
『…れ、さん…』
きっと、お互い気付いてる。
けれど、どうしようも無い。
それも互いにわかってるから、私達はこれからも距離を詰めないだろう。
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莉子(プロフ) - 一気読みさせていただきました!!!面白すぎて禿げそうです…更新楽しみに待ってます!! (2022年4月2日 15時) (レス) @page9 id: e12f476466 (このIDを非表示/違反報告)
ぷぅ(プロフ) - とうとう降谷さんにバレちゃった?(゜ロ゜)主人公ちゃんもだけど無理やり任務をさせてる西条さんの方がめっちゃ怒られるでしょうね、早めに言っちゃうけど西条さん自業自得だけど御愁傷様です(^∀^;) (2021年11月10日 19時) (レス) @page9 id: b4f5c0261e (このIDを非表示/違反報告)
ぷぅ(プロフ) - うわぁ、無理やり自分に回ってきた潜入捜査の仕事を押し付けておいてこんな態度?(°Д°)降谷さんに知らせずに主人公ちゃんに自分の仕事を無理やり押し付けてるのを降谷さんが知ったら西条さんに何やってるんだって大激怒でしょうね(笑)(´▽`;)ゞ (2021年10月15日 2時) (レス) @page6 id: b4f5c0261e (このIDを非表示/違反報告)
ウミ(プロフ) - 楽しみにしてます。 (2021年7月18日 9時) (レス) id: a500a044fa (このIDを非表示/違反報告)
ぷぅ(プロフ) - 名家の出のお嬢様でも降谷さんは容赦ないでしょうね、大好きな婚約者の降谷さんからどんな仕打ちをされるか楽しみです(笑)(-∀-)更新楽しみにしてますね(*≧∀≦*) (2021年2月16日 0時) (レス) id: b4f5c0261e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蘇澳 | 作成日時:2021年2月4日 22時