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あの時、零さんは、何を言おうとしてたんだろう。
でも、聞いてはいけないものだってことは察した。聞いたら、戻れない気がして。
あのまま、私が止めなかったら、その…キス、してたんだろうか。あの、綺麗な翠玉が閉じられて、長くて細い指が私の頬を這って__
「__A」
『…はい、』
しまった、零さんに捕らわれていた。
今は大事な顔合わせだっていうのに。
「お待たせしてしまい申し訳ない」
主役は遅れてやってくるとか言うけど、流石に遅れすぎ。
海棠家のご子息は礼儀がなってないようだ。
私は何も発さず座った目のまま軽く会釈をした。
「あぁ、怒らないでAさん。君に会えるのが楽しみで眠れなかったんだ」
ぶふっ…危ない吹くとこだった…
その顔で、その性格かい。
私はそれにすら特段反応を見せずにいれば、さすがに大人しく座った。
金持ちってみんなこうなの?西条に海棠に。
______
「ねぇ待ってAさん」
慣れない着物の裾を捌いて、一輝に手を借りながらも立ち上がった時、ふと海棠のご子息_亮に呼び止められる。
『…なにか』
表情をひとつも動かさずその一言だけで返してやると、亮が立ち上がり、こちらへ近付いてきた。
私は一輝の後ろへ恐る恐る身を隠す。一輝は何やらにやにやと笑っていた。
「はは、君はお兄さんが大好きなんだね」
それを聞いた瞬間、はぁ?なにー!?と思ったが、ぐっと堪えて
『…そうかもしれませんね』
「妬けるなぁ、僕の奥さんになる人なのに」
そこで堪らず私が吹き出す。
『ふ、ふふっ…あなたは婿殿で、それに一緒に暮らすわけじゃないのに悋気起こされるの?』
口元に手をやりながらくすくすと笑っていると、何だか惚けた顔をした亮が、私の手を握る。
「政略結婚でも、恋愛をしてはいけないなんて決まりは無いよ?A」
呼び捨て…。
あぁ、零さん…。零さんに呼ばれたい。あの、すんなりと耳に馴染む声で。
そんな希望をかき消すようにふるふると頭を振ると、亮へ向き直る。
『…私は、貴方とそんな不毛なことをするつもりはありません。互いの利益に則った関係でいるつもりです』
私の心には、決めた方がいる。
心まで売れと言われた訳では無いもの。
「…ふーん、強情だね。でも、堕ちるのを楽しみにしてる」
どう転んでも君は僕の奥さんになるんだから。
西条さんを思わせる歪んだ笑顔に、体が震えた。
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莉子(プロフ) - 一気読みさせていただきました!!!面白すぎて禿げそうです…更新楽しみに待ってます!! (2022年4月2日 15時) (レス) @page9 id: e12f476466 (このIDを非表示/違反報告)
ぷぅ(プロフ) - とうとう降谷さんにバレちゃった?(゜ロ゜)主人公ちゃんもだけど無理やり任務をさせてる西条さんの方がめっちゃ怒られるでしょうね、早めに言っちゃうけど西条さん自業自得だけど御愁傷様です(^∀^;) (2021年11月10日 19時) (レス) @page9 id: b4f5c0261e (このIDを非表示/違反報告)
ぷぅ(プロフ) - うわぁ、無理やり自分に回ってきた潜入捜査の仕事を押し付けておいてこんな態度?(°Д°)降谷さんに知らせずに主人公ちゃんに自分の仕事を無理やり押し付けてるのを降谷さんが知ったら西条さんに何やってるんだって大激怒でしょうね(笑)(´▽`;)ゞ (2021年10月15日 2時) (レス) @page6 id: b4f5c0261e (このIDを非表示/違反報告)
ウミ(プロフ) - 楽しみにしてます。 (2021年7月18日 9時) (レス) id: a500a044fa (このIDを非表示/違反報告)
ぷぅ(プロフ) - 名家の出のお嬢様でも降谷さんは容赦ないでしょうね、大好きな婚約者の降谷さんからどんな仕打ちをされるか楽しみです(笑)(-∀-)更新楽しみにしてますね(*≧∀≦*) (2021年2月16日 0時) (レス) id: b4f5c0261e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蘇澳 | 作成日時:2021年2月4日 22時