吉良 ページ25
Aside
オーストラリア戦前夜、なんとなく眠れなくてテラスに訪れた。
暗闇が支配する夜空には無数の煌めく光が散らばっていて、まるで空に夜の東京が浮かんでいるようだった。
一際目立って瞬く一等星に手を伸ばす。このままギュッと握り締めたら、この星は握りつぶせるのではないかと錯覚する。
かたん、と小さな音が聞こえて振り返ると吉良先輩が立っていた。
「………吉良先輩も眠れないんですか？」
「ああ」
「でもちゃんと寝なきゃ駄目ですよ。明日試合に出るじゃないですか」
吉良先輩は夜空を見上げながら歩いて私の横で止まる。
「そんなのお前だってそうだろ」
「私は出ないですよ。代わりに一星が出るので」
と答えると「一星…………？あァ、あいつか」とさして興味もないように答えた。
「スタメン降ろされて悔しくねェの？ってか、なんで知ってんだ」
「……………」
しまった、スタメン発表は早くて試合当日の朝にされるもの。現時点で知っているなんて怪し過ぎる。自分のミスに心がどよめく。
「一星くんが絶対スタメン入りするぞーって意気込んでたので、多分スタメンになるだろうなーって思って」
「ふーん。別に、お前以外にもミッドフィールダーいるじゃん」
「やっぱり経験豊富な先輩たちは外せないでしょうし………同じ一年と交代かなと」
「…………ま、このゴッドストライカーがいるからにはミッドフィールダーの出番なんて無いだろうけどな」
堪らなく見苦しい言い訳だったが乗り切れた。
「あとよ、吉良先輩って呼び方気持ち悪いから呼び捨てでいい。じゃあな、俺は寝る」
「え、あ、おやすみなさいっ」
去りゆく吉良先輩……………？吉良…………ヒロト…………？違和感が凄まじいが、ヒロトの後ろ姿にぺこりと一礼。
「…………………………韓国戦のとき、守ってくれてありがとうな」
という言葉に顔を上げたが、そこにもうヒロトの姿は無かった。
「………ヒロトさん……………ヒロト先輩…………………違和感しかないや」
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作者名：くつる | 作成日時：2020年3月15日 3時
