はじまり ページ1
Noside
とんとんと控えめなノック音が病室に響き渡る。
中から聞こえた「どうぞ」という声に従って戸は開く。
「やあ、Aさん。久しぶりだね」
入ってきた人物を見ると、病室の主戦術の皇帝こと野坂悠馬は優しい笑みを浮かべた。
「お久しぶりです、野坂さん」
Aと呼ばれた少女は長い髪を揺らしながらベッドに近寄り、ビニール袋を野坂に手渡す。
「その辺のコンビニで買ったものですが、お土産です」
「ありがとう。体調は大丈夫なのかい？長らく入院していたと聞いたけど」
野坂は貰ったビニール袋の中身をチラりと見てからAに視線を向ける。
「お陰様で。無事に日本代表候補メンバーにも選ばれましたし」
「それは良かった。僕も早く、フィールドに立ちたいよ」
二人で談笑を繰り広げていると、Aがうっかり開けっ放しにしていたドアから黒髪の少年と灰色の髪の少女が入ってきた。
「野坂！」
「来てやったぞ」
「明日人くんに灰崎くん。来てくれたんだね」
太陽に選ばれた少年稲森明日人とフィールドの悪魔灰崎凌兵。
野坂の反応を見るに、三人はそこそこ親しい仲のようだ。
「………それでは野坂さん、私はこれで」
Aは野坂に一礼すると明日人と灰崎を一瞥して病院から去っていく。
Aの背中に向けて手を振る野坂とそれを不思議そうに見詰める明日人。
「野坂、あの人は………？」
「永世学園一年、柊A。ポジションはミッドフィールダー。破天荒なプレイと生まれ持った高い身体能力でフィールドを掻き乱す、フィールドブレーカーの二つ名を持つ選手だ」
後から西瓜を二玉持ってやってきた静かなる守護神西蔭政也が説明する。
「永世にそんな奴いたか？」
「彼女はフットボールフロンティア地区予選の初戦で大怪我を負ってね。つい最近まで入院していたんだよ」
「へえ………」
「さっき聞いた話だと代表の候補メンバーにも選ばれたそうだよ」
「え！？初戦しか出てないのに！？」
病院に見合わぬ大声を出す明日人。
そしてすぐにここが病院だと言うことを思い出したのか、慌てて自身の口を手で塞ぐ。
「それだけ実力のある奴ってことだな」
「そうなるね」
「そんなにすごい奴がいるなんて………早く一緒にサッカーしたいな！」
目を輝かせる明日人とそれを鼻で笑う灰崎。
彼らはまだ知らない、これから巻き起こる悲劇を。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 27人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：くつる | 作成日時：2020年3月15日 3時
