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二十二話 ページ22

伏黒side



風が吹く。
緩やかに暖かな風が、髪を撫ぜる。

うっすらと瞼を開くと、淡い月明かりが縁側から差し込み、電気もいらないくらいに明るく夜の世界を照らしていた。後ろには津見紀、俺の目の前の布団には誰の姿もない。

寂しい。

そう思ったとき、ふわりと頭に手が触れた。
暖かい手。
この温もりを俺は知っている。


「とうさん」

『ん、起こしたか』


体を縁側に向けて座す父さんの腰に、体を寄せて抱きつく。特に変わった様子も見せず、ただ頭を撫でてくれる父さんは、どこか変だ。
手つきは優しいのに…すごく悲しそうな顔をしている。無表情だって言われそうだけど、俺には分かるんだ。


「寝ないの?」

『お前が寝たら寝る』

「…じゃあ、起きててよ」

『背が伸びねえぞ』

「いいもん」

『はぁ…』


仕方ないなと言わんばかりにため息をつき、横になる。
視界が僅かに青いのは夜空と蚊帳のせい。
一度だけ父さんの仕事について行った時に見せてくれた、帳の中みたいで、なんだか少しワクワクする。

向かい合って背中をぽんぽんとリズム良く叩く。津見紀は一度寝るとなかなか起きないから、こういう時は父さんを独り占めできるから、正直嬉しい。

大きな傷のある顔に、そっと手を添える。

火傷みたいだけどそうじゃなくて。
シワシワで、硬くて、少し浅黒い。凸凹もしてる。


「明日は仕事?」

『いや、明日は休みだ。…どこか行くか』

「ううん。術式の練習がしたい」

『……恵』


ふと、外が陰る。
月に雲が被ったのだろうか。
暖かかった風がほんの僅かに冷気を帯びた。
布団を肩までかけられて、温かみが増す。


『呪術師になりたいか』


目が、光っている。
鮮やかな青鈍色に、緩やかな翡翠色を混ぜて、恐怖と奇妙な圧を侍らせたまま。

俺を見た。

怖くない。
怖がってるのは、多分…父さんの方だ。

なってほしくないんだと思う。

でもならないと俺のためにはならないし、狙われるならなって欲しいんだと思う。俺自身もわかってないことが多いから、判断しにくいけれど。

それでも俺は、


「…なりたい、と思う」


多分この言葉が、俺の人生の分岐を一つ潰した。



.

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ツバメ - なんか甚爾が居ないのを前提にしてるからそこは凄くさびしいけど、彼女の意思と決意が強すぎてつい本人みたいに引き込まれてしまいそうです (2021年7月27日 23時) (レス) id: e61b67cd9c (このIDを非表示/違反報告)
黒野麻陽(プロフ) - クレイさん» 応援ありがとうございます、期待に応えられるよう精一杯やります!! (2021年3月11日 20時) (レス) id: 53793cef18 (このIDを非表示/違反報告)
クレイ(プロフ) - 続き楽しみにしてます!頑張ってください! (2021年3月11日 20時) (レス) id: a6777d967f (このIDを非表示/違反報告)
黒野麻陽(プロフ) - てる。さん» コメントありがとうございます!できるだけ面白く書けるように頑張ります!! (2021年3月5日 15時) (レス) id: 53793cef18 (このIDを非表示/違反報告)
てる。 - 話の中に凄い引き込まれました。一言ではいい表せませんが、言葉が見つからない…!更新、楽しみに待ってます。 (2021年3月5日 14時) (レス) id: 5ec2a8a618 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:黒野麻陽 | 作成日時:2021年2月17日 22時

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