そして、家族へ

1.稽留流産 ページ2

｢赤ちゃんの心拍は…｣


春樹の声が詰まるのがわかる。

エコー画像を見ていても、小さな胎嚢は明らかに
2週間前と変わらない大きさで、本来ならトクトクと
一生懸命に動いているであろう心臓の動きも確認する事は出来なかった。

｢えっ…先生？｣

カーテンの向こうからは不安そうな患者さんの声。

｢…稽留流産です｣

春樹はそう告げると、エコーを見ることを辞めて
患者さんに着替えを促した。


“流産”


という、単語を耳にした患者さんは身支度を整えると
そのままヨロヨロと春樹の向かい側に座る。
そんなまだ状況を把握出来ていない、患者さんに対し、
彼は淡々と話を始める。

｢稽留流産です。
おそらく、この大きさなら自然に出血して
流れてくるかと思いますが、出てこない場合もあります。
出てこない場合は掻爬術をするため
1泊入院しての処置になります。いつがいいですか？｣
｢えっ、と…流れるって？赤ちゃんが？
“そうはじゅつ”って？
ちょっと、よく分からないんですけど…｣

混乱する患者さんに対し、どうぞと、冊子だけ渡し
カルテに経過を打ち込む姿は、傍から見れば
本当に冷たい人間だと思う。

その証拠に患者さんは1人、冊子を見て肩を震わせた。

｢また2週間後予約入れておくのでそこで様子を見て、
処置の日を決めましょう。お大事に｣

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