舞賀家との暮らし方【ars】 (ページ25)

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20日目ページ25

膝に顔を伏せたまま彼はポロポロと言葉を紡ぐ。

「いっちゃんがAちゃんをアトリエに連れてきた時からずっと可愛いって思ってた」

それは彼と初めて出会ったアトリエでの出来事。
まだ1か月ちょっと前のことなのに遠い過去の出来事のように思えた。

「…三郎くん」

苦し紛れの声を漏らす三郎くんはあまりにも弱々しくて私も心が苦しくなる。

「心の声漏れちゃってあの時可愛いってド直球に言っちゃったけど…」

彼の今の一言で遠い昔のように思えた出会った時の記憶を鮮明に思い出す。

ああ、たしかに。彼は私の目を見て言っていた。

そして私は勝手にもしかして今も思ったまま口にしちゃっているのかな…なんて、次の言葉にちょっとだけ、期待してしまう。

「あの時はまさかねって思ってたけど…

今も出会った時と同じ気持ちなんだもん」

そう言うと三郎くんは私の方へしっかりと向き直した。

"もう、止まんない。"

こちらに向き直った彼の顔に弱々しさはもう感じなかった。
代わりに夕日に照らされた三郎くんはいつもと違っても色っぽく見えた。

ただ今もその表情は苦しそうなのに目にはゆらゆらと光が宿っている。
それはまさか私に恋なんてしないよなんて冗談言っていられないほど。

きっと本気なんだなと…彼の目を見れば確信できるほどの揺るぎない私への恋慕の瞳。

「さ、三郎くん」
「ごめん、びっくりしちゃった？｣
「これは、どう受け取ればいいの？」

目では痛いくらいに伝わるのに言葉は未だ曖昧だった。

「んー…回りくどすぎた？」

そう言うと彼はニヤリと笑って顔をそっと近づけてきた。

ああ、確信犯なんだこの人は。
天然おバカだと思ってたのにな…私のことをずるいと散々言っておいて、貴方もこんなにもずるいことしてる癖に…確信犯。

近づいた時に触れそうになったサラリとした髪の毛、彼のシャンプーの微かな匂いが鼻を掠めた。

「なんだか曖昧で分からないよ」

私も正直彼本人の口から聞かなければま確信がないから…ちょっとだけ彼を騙す。

そしたら彼はまたニヤリと笑った。
それはまるで"直接言って欲しいの？"とでも言うような視線。

「ふふ、じゃあ…ちゃんと言うよ。

…Aちゃんが好き。
可愛くてちょっと狡い所も全部大好き。｣

その時きっと時が止まったと思う。

それは私だけじゃなく、ちゃっかり聞いていた一郎くんも四郎くんもだったみたいで…

「これは一大事ですね…」

ポツリと四郎くんが呟いた。