水泡に帰す君に告ぐ ページ16
「そこを動かないでおくれやす」
私が珊瑚から身を乗り出すと、声がした。
二十代前半から重大後半くらいの聞き取りやすい、聞いてて心地の良い声が。
独特の訛りにはまだ母国語が混じってる。
私、この人、知ってる
「…綿霞サラ＝抹茶さん……？」
「そう！覚えててくれて本当に嬉しやす！抹茶かサラでいいと言っていますのに…」
わたがすみさら。基わたがすみまつさ。
去年辺りに政略結婚をした、グランシャリオ家唯一の既婚者である。
翠色の髪で、毛先だけ桃色の不思議な髪色。
目は藍色と灰色の混じった色。
お互い愛し合っているらしく、幸せ者だとステラは言っていた。
抹茶の姿は無いが、声だけが響く。
「まっ、抹茶さん！ここ、何処ですかぁっ！？」
「…………」
「サラさん！」
「けうちゃんには申し訳ないけどね…ちょっとここにいてほしいんよ…」
けうちゃん、とはレアリアのレアと嫁ぎ先のニホン？とやらの稀有をかけたそうだ。
レアリアを引っ掛けていた珊瑚が身を引き、水に消えた。
その瞬間、レアリアも水へ落下した。
「わ、わぁぁぁっ！？！？」
「おたくの黒メイドさんがメルフィスを倒してくれれば、楽にしたがるからね。
ちょっとだけの我慢だからね。」
水の中で触手が絡みつく。連れ去る気だ。
「んんー！んー！」
「…ん…ぅ……」
ってとこまで覚えてる。
でもここは違う。い草の12畳の広ーい部屋。
お布団とか、抹茶と和菓子と、金魚鉢や巻物なんかある。
襖が壁の代わりをしており、壁がない。
でも襖は一つも開かない。
お腹が空いたと思えば和食が何処からか御膳で出てくる。
とても楽しい。快適。
「…それでも」
私はステラとクロといる時の方が好き。
きっと、こういうのはたまにだから楽しいの。
だから私は
「ここから出なきゃ」
襖を壊すための術を探し出した。
……
けうちゃんへ。……いや、
水泡に帰す君に告ぐ。
汝を信じて見せましょう。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：蜂蜜流星群 | 作成日時：2020年8月1日 10時
