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秋山とこんなに近い距離になるのは、あの夜以来なかったから。
突然の子の近さに再び思考が停止する。
「なんつ〜顔させてるんだよお兄さん」
「うるさい。見るな、離せ」
「まぁ確かにこの顔はソソるな〜」
くつくつ、と喉で笑う秋山。
なんでもいいから放してほしい。
「さて、本気でキレられても対処に困るし、そろそろ放しましょうかねぇ」
ぱっと、身体が解放される。
キレられるってなんだ。
「それじゃあ」
少し開いた距離の中で、秋山が私を見下ろす。
すっと目を細めて、何を言うのかと思いきや。
「ここにいる理由、あっちであの2人と一緒に教えてもらいましょ〜か?お嬢さん」
・・・忘れてた。
てか、そもそも何でこの人たちはここにいるんだ。
この人たちが部屋に来さえしなければ、絶対バレないはずだったのに。
そんなことを思いながら3人でリビングに向かえば。
顔を青くして座っている瞳と吉良。
と、その向かいのソファーに腰掛けている藤城と岬。
やっぱり扉を開いた瞬間に見えたものは幻じゃなかったらしい。
しっかり全員集合してしまってるらしい。
「聖夜ちゃん・・・」
絞りだされる吉良の声が痛々しいけれど、それを救ってあげられる術を私は持っていない。
私も今からここで4人から集中攻撃を受ける身なのだから。
「さて」
岬がぽつりと零した一言に、瞳と吉良の肩がわかりやすく飛び上がる。
「どうして沖縄にいるのかな?3人とも」
面白がっているのか、怒っているのか。
曖昧な声色すぎて見当がつかない。
どうしてと聞かれても、理事長に言われて来ただけだし。
そもそもみんながこの部屋にいる理由のほうが気になる。
その疑問を持ったのは私だけではないようで。
「あのー・・・。その前にみんな、どうしてこの部屋に?」
おずおずと聞いた吉良の言葉に、暁はわかりやすく眉を顰めた。
「それは、」
説明しようとした暁の言葉を遮るように、バタンと部屋の扉が開く。
颯爽と部屋に姿を現したのは。
「おぉ、やはりここにおったか」
着流し姿の理事長だった。
「・・・どういうことだ、ババァ」
「それはわしのセリフじゃ。フロントに預けてある荷物を届けに来いと言うたであろ」
「スイートルームにっつっただろ」
「『ロイヤルスイート』じゃ阿呆め」
「スイートルームにっつっただろババァ」
低い暁の声に飄々と答える理事長。
え、てかそんな伝達ミスで今の状況が出来上がってるの・・・?
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作者名:聖夜 | 作成日時:2022年8月27日 0時