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「っ、」
縮まった距離に体制が崩れないように、暁に右肩を掴まれた瞬間。
耐えきれなくなって目を閉じる。
目を開けて確認しなくても、彼がすぐ近くにいることを全身が認識して。
呼吸の仕方すら、忘れてしまいそうになった。
「これは折れなそうだね」
耳が膜を張ったみたいに、呟いた岬の声がやたらと遠く聞こえる。
吐息同士が触れる、身動きしただけで触れてしまいそうな場所で。
「ぁ、」
小さく、暁が声を漏らした。
それに反応して、身体が小さく揺れる。
「折れた」
低い声で小さくそう言って、するっと私の肩から彼の手が離れた。
暁の動いた気配に、恐る恐る目を開ければ。
「残念」
官能的に、美しく口角を上げて。
私を見据える暁の姿。
「ごちそうさま」
ぺろっと、妖艶に指を舐めながら。
あまりにも色気のありすぎる表情と声色で、そう言ってのけた。
緊張の糸が切れ、呆然と見つめるだけの私に。
「キス、したかった?」
悪戯っぽい表情で、でも熱を帯びた瞳で、暁がそんなことを言うから。
『・・・そんな、ことない、』
ぼろぼろの言葉しか、口から出てきてくれなかった。
もし、あのまま暁が折らなかったら、なんて考えて。
自分のその考えに、どうにかなってしまいそうだった。
だから。
『・・・みんな、早く割り箸引いて。次私が王様だから』
無理やり暁から視線を外して声を出した。
男女のドキドキ、なんて。
私は望んでなんかいない。
みんなが割り箸を引き終わるのをじっと待つ。
『はい、3番から7番いい感じにスペース開けて立って』
「また全員かよ!」
『王様命令』
全員がスペースをとったことを確認して。
『今から音源流すから、全員で本気でラジオ体操してね』
「嘘だろ!?」
「僕、覚えてないよー!」
『じゃあ、なんとなくで踊りなさい』
彼らを無視して音源を流す。
ぶつぶつ文句を言いながらうろ覚えでラジオ体操する彼らの面白い映像をしっかり収める。
さっきのピラミッドの画像と一緒に、その映像も榊さんが持ってくれている私の携帯に送信。
数分後、榊さんから【さすがみな様は何をされても素敵ですねw】という返信メールが届いた。
それを読んだ暁はその場で榊さんに電話をかけていろいろと脅していたけれど。
その後も固定王様ゲームは続き、理不尽な命令を聞いたり聞かせたり。
時間は流れるように過ぎ、まどろむ海に沈み込むように、私はいつの間にか眠ってしまっていた。
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作者名:聖夜 | 作成日時:2022年8月27日 0時