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「椿サン、コイツら3人とも俺らと行動させてよ」
さっきまで黙っていた綾が理事長に提案する。
「教育実習生って普通は生徒に交ざって行動するじゃないスか。俺英語できるしオッケーっしょ?」
相変わらず彼の敬語はめちゃくちゃだ。
でもそんなことさして気にも留めていない理事長は、小さく「ふむ」、と声を漏らした。
「まぁよかろう。バレんようにだけ気をつけての」
「リョーカイー」
「輝は海に入れんじゃろ。ぬしは水族館から合流じゃ」
『・・・え。・・・はい』
「そろそろこの場から動け。スキューバの説明じゃ」
それだけ言って、すたすたと1人で更衣室の前から離れていく理事長。
本当にもう別行動でいいらしい。
輝と一緒にいられないのは残念だけど、確かにスーツで砂浜にいるのは大変か・・・。
『キャサリン、本当、色々気をつけてね』
「え、うん」
いつにもまして真面目な表情を浮かべた輝は、そう私に念を押して理事長の後を追っていった。
<聖夜side>
海から戻ってきた生徒会メンバーと、水族館で合流する。
海から上がってシャワーを浴びたらしいけど、みんなからは微かに潮の薫りがした。
ちなみに、生徒会メンバーと行動する口実は、「理事長が疲れてホテルに帰るから暁昴の世話役に回された」である。
強引すぎる。
「っし、じゃあ行きましょうかね〜」
水族館の敷地内は自由行動でいいらしい。
生徒達も各々、行きたい場所に足を進めて散らばっていった。
「ふぅ、これで普通に話せるねー」
安堵したように桃果が息を吐く。
「でも館内に入っちゃったらまた会話できなくなるんじゃない?」
水族館ってそんなに広くないイメージだし、と漏らしたキャサリンの言葉を聞いて、桃果は露骨に嫌そうな顔をした。
まぁ気持ちはわかるけど。
私だって正直面倒くさい。
声変えて話すの何気に疲れるし。
「まぁここにずっといても仕方ないし、俺達もそろそろ行こうか?」
ぴら、と館内案内を揺らめかせた陽平の言葉に、私達は同意して動き出した。
だがしかし、みんな、水族館にあまり興味はないらしい。
いや、私も魚の目の感じとか苦手だからいいけど。
他の生徒達は魚を見たり、イルカショーを見たりしているというのに。私達はといえば、そんな流れに逆らって今お土産屋さんにいた。
店内には海の生き物のぬいぐるみなんかが所狭しと置かれている。
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作者名:聖夜 | 作成日時:2022年8月27日 0時