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「瞳ちゃん・・・コレ引っ張ったらどうなるの?」
桃果が微妙な表情で私に問いかける。
そんな彼女は偽物の胸を詰めて白いフリフリの水着を身につけていた。
下はデニムのショートパンツ。
さすがに下は女物の水着じゃないらしい。
いや、そんなことよりも。
「ひ、引っ張っちゃダメっ。ぬ・・・脱げちゃう、から・・・」
そう、問題は私の水着だ。
デザインの何が問題化といえば、紐。
下のサイドが紐なのが問題なんだ。
どうしようもう海どころじゃない。
そんなふうに更衣室の前でまごまごしていると。
「華月嬢、スキューバの説明が始まるぞ」
ひょいっと、その場に姿を見せた理事長。
早くしろ、とでも言うように私達を見つめる理事長。
「理事長っ、私こんな水着ムリですっ!」
そんなふうに懇願する私に向かって彼女が放った言葉といえば。
「キャサリン、ぬしはアメリカ人の設定であろ?」
「え。いや、初めて聞きましたけど」
「よく考えてみろキャサリン。映画でもよく見るであろ?そんなデザインの水着を着て堂々と歩くアメリカ人の姿を」
「はぁ・・・。まぁ見たことはあります」
「コレは変装じゃ。他の生徒にまでバレるワケにはいかんだろうに。その水着で恥ずかしがるのは日本人くらいじゃ」
「そう、ですかね・・・?」
首を傾げる私に向かって数回頷いて見せる彼女。
「恥ずかしいと思うのは日本人の悪い癖じゃ。堂々としておれば誰もキャサリンのことを華月嬢とは思わんだろう。コレは正体を隠すための変装だということを肝に銘じるように」
なんだか丸め込まれてる感はあるけれど。
「はい。そういうことなら・・・頑張ります」
言われてみれば欧米の人は普通にこんな水着を着てる、と思う。
変装なら仕方ない。今はキャサリンだし。
「なんか上着がなくても大丈夫な気がしてきた。ありがとう輝」
するっと、肩から上着を取って輝に渡す。
受け取った輝は呆れた顔をしていた。
ぼそっと『単純・・・』と聞こえたのは気のせいだろう。
「行くぞ。3人とも」
「あ、はい」
足を進めようとして、ぐらっと後ろに傾く。
原因は綾が私の腕を引っ張ったから。
倒れ込んだ勢いで背中に綾の肌が触れて、生々しさに全身の筋肉が強張った。
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作者名:聖夜 | 作成日時:2022年8月27日 0時