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裾をさっと払って立ち上がった理事長は、「ほれ」と私に手を貸してくれる。それに甘えて、「ありがとうございます」とその手を取った。
榊さんはどこからがハンカチを取り出して、私の膝についた汚れを落としてくれるけれど。
「榊。セクハラという言葉を知っておるかの?」
ぴたっと彼の動きが止まる。
ぎりぎりと錆びた金属の音が鳴りそうな動きで彼女を振り返る榊さん。
「・・・はい?」
「理由をつけて女子高生に触れる。さて世の中ではこれをなんという?」
あぁ、可哀想に。また遊ばれてるわ、この人。
「セクハラ・・・。これが?いや、でも・・・。いや、セクハラのつもりは・・・」などとぶつぶつ呟く榊さん。
そんな彼を見つめて至極楽しそうな表情を見せる理事長。
困った組み合わせだ。本当に。
でもまぁ、面白いから放っておこう。
「では、昼食に行こうかの、天宮嬢」
やっぱり、しっかり放置するんですね。
「おお、そうそう」
何かを思い出したかのように突然手を叩く理事長。
「天宮嬢。莉鏡の娘から、言伝を預かっておる」
『・・・何でしょう?』
あの子が私に伝えたいことなんてあるのか。
「【私に壊せなかったんだから、他の誰かに壊されたり自分から壊したりしたら許さない】、と。【最後まで彼らの傍にいなさい】と、そう言うておった」
『最後、まで・・・』
「わしの勝手な解釈だが、"幸せを拒むな"ということではないかの」
幸せ、を・・・。
色んなこと、たくさん考えて。自分がおそらく幸せだと言われる環境に身を置いていることが、申し訳なくて、恐かった。
でも。
『・・・ありがとうございます』
解放された気分だ。
"自分"を見失わずにこの環境に適合していけばいい。
鍵をくれたのは他でもない。理事長と、そして。
『もしあの子にまた会うことがあるなら、【幸せにならなかったら許さない】、と伝えておいてください』
「・・・あぁ。伝えよう」
理事長のあとに続いて部屋から出る。
一歩先は、もう純和風の世界。
やっぱりあの部屋は、不思議な空気が流れていたと思う。
少し時間が遅れているような、記憶の中にいるような、そんな空気が。
『・・・・・・っ!』
こめかみの奥が、少し焼けるような感覚。
ちらりと浮かんだのは、白い花。
「天宮嬢?」
『なんでも、ありません』
なんでも、ない。何も。
思い出したくない何かを振り払うように。
思考を止めて、ただただ廊下を進んだ。
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聖夜(プロフ) - 天宮さん» ありがとうございます!頑張ります! (2019年5月20日 23時) (レス) id: 8b1588b2b7 (このIDを非表示/違反報告)
天宮(プロフ) - この小説とても面白いです!これからも頑張ってください!! (2019年5月20日 20時) (レス) id: 9819c94959 (このIDを非表示/違反報告)
聖夜(プロフ) - ちゅんさん» お待たせしましたー!ありがとうございます頑張ります! (2019年3月31日 9時) (レス) id: 8b1588b2b7 (このIDを非表示/違反報告)
ちゅん(プロフ) - 待ってましたー!!これからも更新頑張ってください!!楽しみにしてます! (2019年3月31日 1時) (レス) id: 1fdd2ab3eb (このIDを非表示/違反報告)
聖夜(プロフ) - ラビットさん» お待たせしました!ありがとうございます頑張ります!! (2019年3月31日 0時) (レス) id: 8b1588b2b7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:聖夜 | 作成日時:2018年8月14日 20時