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理解できなくて、困る。
どうして私は理事長と2人で黒塗りの高級車に乗ってるんだ。
『あの、理事長、どちらに・・・?』
車は矢のように景色を飛ばすけれど、どこに向かっているのか。彼女は鼻歌でも歌いそうなほどご機嫌に、楽しげに、私に行き先を告げた。
「暁邸じゃ」
当然、と言わんばかりの表情で悪戯っぽく笑う。
その顔が暁そっくりだな、なんて。
『・・・ちなみに、なぜ、でしょう?』
私、まだ暁の家に怒られそうなことした覚えはない・・・はず・・・。
内心冷や汗だらだらの私に気づいているのかいないのか、目を細めながら彼女は言った。
「昼食をの」
『・・・は?』
「昼食を一緒にどうかと思っての」
まさかの?何故今日なのか・・・。
『私が急にお邪魔して大丈夫なんでしょうか・・・』
すごーく気が引ける。でも断るに断れない。
従ってしまうのだ、この人には。
「わしが無理やり引き連れた。遠慮するでない」
『は、ぁ』
「それとも」
すぅ、と細められる目。
試すように、量るように。
「場所が嫌かの?」
一瞬見せたその表情が、先ほどの暁と被った。
暁の家。極道の、家。
『いいえ。喜んで』
信号で車が止まったせいか、その言葉はやけに車内に響いた。それを聞いた理事長が、薄く笑う。
その様子がとても儚げで、心底美しいと思った。
「やはり、ぬしは面白い」
『・・・・・・(面白い?)』
「すぐ着く」
それだけ言って、彼女は目を閉じた。
私は何もすることがなくて。
ただただ、飛ぶように流れる外の風景を見つめていた。
車内は無言のまま、車はしばらく走り続けて音もなく滑らかに止まった。それと同時に開かれる理事長の瞳。
自動でカチャッとドアが開き、促されるまま外に出る。
目の前に広がっていたのは。
『・・・(なかなかに、大豪邸)』
気で出来た大きな門に、立派な松。
風情のある、日本家屋。
「ようこそ天宮嬢。まぁ立ち話もなんだ、入ろうかの」
ふわっと透明な花の香りとともに彼女は足を進める。
門を潜れば足元は石畳で、その周りを埋める小さな砂利。
どこまでも"日本"なその風景に、ちり、と眉間が熱を持った。
「おかえりなさいませ。椿様。天宮さん、ようこそおいでくださいました」
『お邪魔します』
玄関で恭しくそう出迎えたのは榊さんで。
今日もキチンと着こなされたスーツがよく似合っている。
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聖夜(プロフ) - 天宮さん» ありがとうございます!頑張ります! (2019年5月20日 23時) (レス) id: 8b1588b2b7 (このIDを非表示/違反報告)
天宮(プロフ) - この小説とても面白いです!これからも頑張ってください!! (2019年5月20日 20時) (レス) id: 9819c94959 (このIDを非表示/違反報告)
聖夜(プロフ) - ちゅんさん» お待たせしましたー!ありがとうございます頑張ります! (2019年3月31日 9時) (レス) id: 8b1588b2b7 (このIDを非表示/違反報告)
ちゅん(プロフ) - 待ってましたー!!これからも更新頑張ってください!!楽しみにしてます! (2019年3月31日 1時) (レス) id: 1fdd2ab3eb (このIDを非表示/違反報告)
聖夜(プロフ) - ラビットさん» お待たせしました!ありがとうございます頑張ります!! (2019年3月31日 0時) (レス) id: 8b1588b2b7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:聖夜 | 作成日時:2018年8月14日 20時