167 ページ17
「･･･引越し、ですか？」
ぎこちなく、"他人"のまま会話をする私。そんな私の態度を気にするようでもなく、壮也さんは優しく微笑む。
彼とは最近、普通に会話ができる。
ただ失礼ながら、桜さんのことは少し苦手だった。
私を見るたびに泣き出しそうに微笑む彼女。
申し訳なくて、いたたまれなくなって。
自分が傷つけているのだと思うと、やりきれなくなる。
「そう、仕事の都合でね。関東に引っ越すことになったんだ。それで」
少し開けた窓から、春の匂いのする風が入って来た。
「瞳ちゃんには、桜場を辞めてそっちの学校に通ってもらうことになるんだけど･･･」
申し訳なさそうに眉根を寄せる彼に、私の方が窮屈な気持ちになった。
気を、使わせているんだと思う。とても。
「･･･わかりました。それで、通う学校は？」
「あぁ、パンフレット持ってきたよ。好きなところを選んでくれればいい」
紙袋から取り出された、数冊の学校案内。
内容を深く読むでもなく、ぱらぱらと適当にめくっていく。
"卯玄高等学校"、"藍璃学園"、"三嶋女子高等学校"。
「･･･あ、」
目に飛び込んできた、一つの学校名。
「ん？何か気になるのあった？」
興味深げに、彼も私の手元を覗く。
「"美鷹高等学校"？」
壮也さんの言葉が耳に入らないくらい、かぶりつくようにそのパンフレットを見つめる。
どうしてか、強く惹かれた。
「･･･そこに行きたい？」
その質問に、躊躇いがちにこくりと頷く。
「どうして？」
「名前、」
「ん？」
「だって、すごく強そうな名前じゃないですか？」
言ってから、とてもバカな発言をしてしまったと気づく。
でも。
「･･･うん」
壮也さんは笑うことなく、そんな私の頭を撫でた。
瞳に少しの、哀しみをたたえながら。
「うん、強そうだね」
もう、その言葉だけでよかった。
ふと、思ってしまったのだ。
"縋りつけそう"だと。
縋りついても壊れなさそうな名前だと。
そう、思ったのだ。
「じゃあ、ここにしようか」
「え、」
「他のとこがいい？」
ふるふると、首を振る。
私の答えに、彼はまた優しく微笑んだ。
「じゃあ、決定ね」
普段の紳士的な姿からは想像もつかないくらい、彼がとても悪戯っぽく微笑むから。
私もつられて、ほんの少しだけ笑った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 64人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
聖夜(プロフ) - 天宮さん» ありがとうございます！頑張ります！ (2019年5月20日 23時) (
レス) id: 8b1588b2b7 (このIDを非表示/違反報告)
天宮(プロフ) - この小説とても面白いです！これからも頑張ってください！！ (2019年5月20日 20時) (レス) id: 9819c94959 (このIDを非表示/違反報告)
聖夜(プロフ) - ちゅんさん» お待たせしましたー！ありがとうございます頑張ります！ (2019年3月31日 9時) (レス) id: 8b1588b2b7 (このIDを非表示/違反報告)
ちゅん(プロフ) - 待ってましたー！！これからも更新頑張ってください！！楽しみにしてます！ (2019年3月31日 1時) (レス) id: 1fdd2ab3eb (このIDを非表示/違反報告)
聖夜(プロフ) - ラビットさん» お待たせしました！ありがとうございます頑張ります！！ (2019年3月31日 0時) (レス) id: 8b1588b2b7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：聖夜 | 作成日時：2018年8月14日 20時
