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数日入院生活を送ったけれど、記憶が戻る気配なんてこれっぽっちもなかった。
話を聞けば、どうやら私は車との接触事故を起こしたらしい。身体中に切り傷や擦り傷があるのはそのためだった。
2日間眠ったままで、事故のショックなのかそのあとの高熱のためか、そんな理由であっさりと私の記憶は失われた。
そして医師は、最後に私にこう告げた。
「普段通りの生活に戻って、学校に通うようになれば、1年ほどで記憶が戻るかもしれない。でもこれはあくまで予想だと、理解していてください。最悪の場合、一生戻らないということもあります」
その言葉に、はっと乾いた笑いが漏れた。
「それと」
少し低くなった声に、胸がきゅっと縮まるような感覚に陥る。
「記憶が戻った場合、反動で記憶を失っていたときの・・・。つまり、"今の記憶"を失う場合もあります」
その言葉に、今までで一番強い衝撃を受けた。
「そ、んなの、」
混乱する。理解できない。
「じゃあ、今の私は、一体なんなんですか・・・?」
不格好な言葉で、なんとか質問を医師にぶつける。
なんのために、"今の私"がいるの?
「貴方は、華月瞳さんです」
ぽろっと、無意識に涙が零れた。
違うのに。そうじゃなくて、私が聞きたいのは。
聞きたいのは・・・。
溢れた涙は、白い世界に溶けて消える。
嗚咽が漏れそうになって、慌てて手で口を塞いだ。
軽く会釈して部屋を出て行った医師に、それ以上何も聞けないまま。
「・・・ふっ、・・・ック」
お願い。お願いだから。
"今の私"が消えてしまうなんて。
そんな怖いこと、言わないで。
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聖夜(プロフ) - 天宮さん» ありがとうございます!頑張ります! (2019年5月20日 23時) (レス) id: 8b1588b2b7 (このIDを非表示/違反報告)
天宮(プロフ) - この小説とても面白いです!これからも頑張ってください!! (2019年5月20日 20時) (レス) id: 9819c94959 (このIDを非表示/違反報告)
聖夜(プロフ) - ちゅんさん» お待たせしましたー!ありがとうございます頑張ります! (2019年3月31日 9時) (レス) id: 8b1588b2b7 (このIDを非表示/違反報告)
ちゅん(プロフ) - 待ってましたー!!これからも更新頑張ってください!!楽しみにしてます! (2019年3月31日 1時) (レス) id: 1fdd2ab3eb (このIDを非表示/違反報告)
聖夜(プロフ) - ラビットさん» お待たせしました!ありがとうございます頑張ります!! (2019年3月31日 0時) (レス) id: 8b1588b2b7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:聖夜 | 作成日時:2018年8月14日 20時