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164《誕生日》 ページ14

"私"が生まれたのは、霧の立ち込める日の朝だった。


ピクリと動かした身体が痛くて、ゆっくりと瞼を上げる。

上げた瞬間、映ったのは白い天井。

そして。


「・・・あ、たし・・・?」


あたし。わたし。私?

全身から、冷や汗が浮かぶ。

枕元を見れば、ボタンのついたコードがあって。縋るようにそれを押す。

押せば本当にすぐに、1人の医師と2人の看護師が部屋に入って来た。


「華月さん、気がつきましたか?」


至極、優しい声音でそう問われる。

問われる、けれど。


「・・・"華月、さん"・・・?」


ぼろぼろと零れた私の言葉に、医師が表情を少し変える。

でもすぐに、先ほどまでと同じ笑顔に戻った。


「・・・華月さん。自分のお名前を、言ってみてくれますか?」


頭が鈍く痛んで、眉間に皺が寄る。


「・・・名前・・・。名前は、」


声が頼りなく震える。泣いてしまいたくなった。

だって、私、は。


「貴女の名前は"華月瞳"さんです」


聞き覚えがないのだ。

"華月"にも"瞳"にも。

聞き覚えがないだけじゃない。


「・・・記憶障害ですね。一時的なものかもしれないし、少し調べて経過を見ましょう」


記憶がないのだ。

ガラスに映った自分の姿さえ、まるで知らない他人のように見える。

"私"はここにいるのに。

それなのに、"私"が誰かわからない。

誰か。

・・・・・・誰か・・・っ。

からからという扉の音で、反射的にそちらに目を向ける。

縋るように、部屋に入って来る人に期待したけれど。


「瞳ちゃんっ、気がついたの!?」


嬉しそうに顔を綻ばせながら足早に近寄って来る可愛らしい女性と。


「よかった、気がついて。具合は?何か欲しいものある?」


その女性を優しく見守りながら入って来た、綺麗にスーツを着こなした男性。2人とも安堵の笑みを浮かべていて。

そして、その笑顔を壊したのは、他でもなく私だった。


「あの、失礼ですけど・・・貴方がたは、どちら様でしょうか・・・」


知らないのだ。

私に笑顔を向けるこの人たちを。

純粋な質問だった。だけど。


「ひ、とみ、ちゃん・・・?」

「俺達のこと、わからないのか・・・?」


傷つけるには、充分すぎる質問だった。

みるみるうちに、その顔から笑みが消える。

残されたのは。


「少しお話があるので、お2人共外に出ていただけますか?」


残されたのは白い世界と何もないからっぽの私だけ。

あまりにも真っ白で、崩れ落ちてしまいそうなほど苦しかった。

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聖夜(プロフ) - 天宮さん» ありがとうございます!頑張ります! (2019年5月20日 23時) (レス) id: 8b1588b2b7 (このIDを非表示/違反報告)
天宮(プロフ) - この小説とても面白いです!これからも頑張ってください!! (2019年5月20日 20時) (レス) id: 9819c94959 (このIDを非表示/違反報告)
聖夜(プロフ) - ちゅんさん» お待たせしましたー!ありがとうございます頑張ります! (2019年3月31日 9時) (レス) id: 8b1588b2b7 (このIDを非表示/違反報告)
ちゅん(プロフ) - 待ってましたー!!これからも更新頑張ってください!!楽しみにしてます! (2019年3月31日 1時) (レス) id: 1fdd2ab3eb (このIDを非表示/違反報告)
聖夜(プロフ) - ラビットさん» お待たせしました!ありがとうございます頑張ります!! (2019年3月31日 0時) (レス) id: 8b1588b2b7 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:聖夜 | 作成日時:2018年8月14日 20時

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