さよなら、私の ページ44
.
可愛いあの子。
愛しいあの子。
帰らぬあの子。
戻れぬあの子。
優しい優しい、あの娘の心は死んだ。
腹を暴かれ、血を抜かれ、喉を裂かれて死んでった。
シグルドリーヴァーの
騙されて、誑かされて、死なねばならなかった
それは、誰にも変えられなかった。
二人は最初からそうであると定められていた。
それでも彼は彼女を愛してくれたから、二人の生涯は意味があった、救いがあったと、そう受け入れられたのだ。
「先生……私は、正義を信じていましたっ、正しく在ろうとする人の願いや心が本物で、ある…と……知って、いたから、だから！私はっ、私は……っ！！」
ヒルデの叫びはそのまま彼女の正義だった。
そして心からの思いであり、今や残酷な悲鳴だった。
正義を信じた。
正義を信じていたかった。
だと言うのに、海軍はヒルデの正義を罪悪だと言って突き放す。
何の罪も無い青年を処刑台に立たせて見せしめの餌として利用した。
これが、兄、ロジャー を見殺しにしてまで尽くし続けた海軍の成れの果てであると目の前にして、彼女は、自分の正義を守る為に全てを裏切った。
「ヒルデ、お前は……」
泣き叫ぶヒルデがあまりにも痛ましくて、ゼファーは何か言おうと言葉をかけて、そして自分が何も言ってやる事なぞ出来ぬと理解して黙った。
ヒルデが欲しいのは、慰めでも共感でもないことを分かっていた。
どうしようも無い事をどうしてと問うことの残酷さを分かっていた。そして、答えのない問いにこそヒルデの苦悩の全てがある事を知っていた。
『───先生、私は海兵になれますか？』
手を伸ばせば触れ合える二人の距離は、決して交わらない遠く離れた場所にその立場を置いている。
『私、いつか先生みたいな人になりたいです。先生みたいに、強くなって沢山沢山、守りたい……』
嘆く教え子一人、導けず救えないゼファーは、唯々、止まない泣き声を聴き続けるしかなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 89人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
きょ(プロフ) - こんなに胸が締め付けられて、感動するお話は初めてです。どれだけ言葉を重ねても、作品を前にすると薄っぺらくなりそうなので一言、素晴らしい作品ですとお伝えできれば嬉しいです。 (2021年3月31日 23時) (
レス) id: 4c3e312f20 (このIDを非表示/違反報告)
カラフィナ(プロフ) - アルっさんさん» ドゥムジさん、その節（イベント）はお世話になっておりますどうぞこれからも宜しくお願いします……（ありがとうございます。確かにヒルデ＝ブリュンヒルデという訳ではないのですが、限りなくそれに近い解釈で大丈夫です。私も見ないな〜と思って書きました。） (2019年9月30日 11時) (レス) id: bf6d2ed987 (このIDを非表示/違反報告)
アルっさん(プロフ) - とても素敵ですね。この作品がいつか多くの人の目に留まることを祈っています。ドゥムジです。(偉そうな口聞いてすみません応援しております。英雄王ならよく見ますがブリュンヒルデ(の様な夢主)が主人公なのは初めて見るので続きめっちゃ楽しみにしております。) (2019年9月30日 10時) (レス) id: cdae6f79c4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：カラフィナ | 作成日時：2019年8月10日 10時
