全て置いて来た ページ31
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16天鐘の音がマリンフォードの地に鳴り響く。
この地で戦い没した者達を弔い慰めるように、16度鐘の音を鳴らし終えるとルフィは帽子を取って黙祷を捧げた。
その横に付き添うのは元王下七武海ジンベエと冥王シルバーズ・レイリーの両名。
そして、戦争最大の“裏切り者”となった元海軍中将にして海賊王の実妹ゴール・D・ブリュンヒルデ。
多くのカメラを向けられながら、それらを全く意に介した風もなく事を終えルフィ達は立ち去って行く。
腕のタトゥーが、事の真相をメッセージとして残していた。
「ひ、ヒルデ、ガルド中将……！！」
その去り際、名も知らぬ一人の海兵がヒルデを呼び止めた。
ヒルデはその呼びかけにピクリと反応して、立ち止まって振り返る。彼女を呼び止めたのは、まだ年若い青年の海兵だった。
数いたヒルデの部隊に所属していた部下にして教え子の一人だ。
「……私は、もう中将ではありません」
裏切り者をそう呼ぶのはやめなさい、と言った。
穏やかで諌めるように真っ直ぐな言葉。ヒルデが部下の指導に当たる時と同じ口調だった。
悼み憐れみにも似た静かで穏やかな眼差しの人に、彼はどうしようもなく泣きたくなってしまう。ヒルデの眼差しがあまりに何も変わらず優しい物だから、どうしたらいいのか分からない。
そもそもどうして呼び止めてしまったのか。
裏切られた恨み言でも言おうとしたのか。ただどうしてと、尋ねたかったのか。
どちらにしても、ヒルデはもう戻っては来ない。海兵ではない。優しく褒められる事も、辛い時に慰めてくれる事もない。
もう、どうにもできない。
「レイリー様、」
「あぁ、どうぞ。思う存分にしなさい」
「はい……」
悲しそうに黙り込んでしまった彼に、ヒルデはレイリーから何かを受け取って掲げた。
白くはためく“正義”の二文字を刻んだコートは、かつて彼女が身に纏いながら命に背負っていた信念の証。
初めてそれを着る事が許された時、敬愛するゼファーに見せ喜ばれた日の事まで具に憶えていた。
ヒルデを、ヒルデガルドたらしめた生涯の一端だった。
彼女はそれに、躊躇なく火を付け投げ捨てた。
「───最早、
ポツリと、そう言い残してヒルデ達は今度こそマリンフォードの地を後にした。
彼女が二度と振り返る事はない。
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きょ(プロフ) - こんなに胸が締め付けられて、感動するお話は初めてです。どれだけ言葉を重ねても、作品を前にすると薄っぺらくなりそうなので一言、素晴らしい作品ですとお伝えできれば嬉しいです。 (2021年3月31日 23時) (
レス) id: 4c3e312f20 (このIDを非表示/違反報告)
カラフィナ(プロフ) - アルっさんさん» ドゥムジさん、その節（イベント）はお世話になっておりますどうぞこれからも宜しくお願いします……（ありがとうございます。確かにヒルデ＝ブリュンヒルデという訳ではないのですが、限りなくそれに近い解釈で大丈夫です。私も見ないな〜と思って書きました。） (2019年9月30日 11時) (レス) id: bf6d2ed987 (このIDを非表示/違反報告)
アルっさん(プロフ) - とても素敵ですね。この作品がいつか多くの人の目に留まることを祈っています。ドゥムジです。(偉そうな口聞いてすみません応援しております。英雄王ならよく見ますがブリュンヒルデ(の様な夢主)が主人公なのは初めて見るので続きめっちゃ楽しみにしております。) (2019年9月30日 10時) (レス) id: cdae6f79c4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：カラフィナ | 作成日時：2019年8月10日 10時
