愛した家族 ページ30
堪らなくなって、気付くと腕を伸ばしていた。
「ルフィ、様……」
「なんだ？どした？」
突然に伸ばされた白くて細いヒルデの指が、ソッと頬を撫でる。
不思議そうな顔をしてルフィがキョトリとその動きを見ていた。
嫌がる様子ではなかったので、ヒルデはそのまま伸ばした手で顔の輪郭を優しくなぞりまだ少しの血と消毒液の匂いに満ちる少年の体を優しく抱きしめる。
エースがギョッとしてあたふたとしているのを気配で感じたが、最早、溢れ出る沢山の感情を抑える事が出来なかった。
「ありがとう、ございます……本当に、ありがとう……っ」
「……泣いてんのか、お前？」
泣いてはいなかった。
込み上げてくる想いの数々は、泣きたくなりそうな程苦しかったけれど涙は出なかった。
「───ルフィ様、私はかつて、兄を見殺しにしました……」
大好きだったのに。
愛していたのに。
あんなにも愛してくれたのに。
ヒルデは。
(……私は、兄さんを救わなかった、)
「ごめんなさい、こんな、こと……貴方に言っても、もう、どうしようもないのに……私、いつも……」
後悔ばかり。
信じて、愛して、手を伸ばして、裏切って。
重ねたくない過去ばかりが鮮明で心に刻み込まれる物だから、苦しくて辛かった。けれど、愛しかった。過去が救いだった。
エースにも打ち明けなかった、兄、海賊王ロジャーへの想いを吐き出したヒルデの、その心の痛みは誰にも理解する事は出来ない。
「お前にも、大好きな人がいたんだな」
「えぇ……そう、です。私、兄が大好きでした。今もずっと、愛しています」
「シシシ……お前、いい奴だなヒルデ！」
その苦痛は彼女だけの物であり、誰にも侵されぬ心の領域だった。
封じ込めて覆い隠して、触らないように、見ないようにし続けた確かな愛情を今更思い出したのは残酷だ。
それでもきっと、その痛みは幸せなのだ。
最愛の面影を秘めた少年を腕に抱いて、ヒルデはそっと過去を思い出した。
正義を信じる為に、別れを告げた筈の家族の事を、思い出した。
嬉しかった。もう二度と思い出さない筈だった兄の笑顔をルフィが思い出してくれたのだ。
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きょ(プロフ) - こんなに胸が締め付けられて、感動するお話は初めてです。どれだけ言葉を重ねても、作品を前にすると薄っぺらくなりそうなので一言、素晴らしい作品ですとお伝えできれば嬉しいです。 (2021年3月31日 23時) (
レス) id: 4c3e312f20 (このIDを非表示/違反報告)
カラフィナ(プロフ) - アルっさんさん» ドゥムジさん、その節（イベント）はお世話になっておりますどうぞこれからも宜しくお願いします……（ありがとうございます。確かにヒルデ＝ブリュンヒルデという訳ではないのですが、限りなくそれに近い解釈で大丈夫です。私も見ないな〜と思って書きました。） (2019年9月30日 11時) (レス) id: bf6d2ed987 (このIDを非表示/違反報告)
アルっさん(プロフ) - とても素敵ですね。この作品がいつか多くの人の目に留まることを祈っています。ドゥムジです。(偉そうな口聞いてすみません応援しております。英雄王ならよく見ますがブリュンヒルデ(の様な夢主)が主人公なのは初めて見るので続きめっちゃ楽しみにしております。) (2019年9月30日 10時) (レス) id: cdae6f79c4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：カラフィナ | 作成日時：2019年8月10日 10時
