優しいあの娘 ページ21
あの娘は、酷く優しかった。
その優しさで涙を流す彼女は痛ましくも、一つの在り方であると知っていた。
「まさか、身内の裏切りに合うとはのぉ……」
「海兵である前に、あの娘だって人の子だよ……二度も、見捨てる事は我慢ならなかったんだろうね」
戦争後の事後処理に追われ、半壊した海軍本部の一室でおつるとガープは久々に顔を合わした。
珍しくガープはお決まりの煎餅を持たず、おつるの手には新聞があった。
見出しには大きく今回の戦争について、裏切った海軍中将の名前が載っている。
ヒルデガルドが裏切った、という事実は海軍を激震させた。
あの場にいた海兵達はその事実を目の前にしながらも信じられず混乱して、指揮系統迄もが乱れたのだ。相対していたサカズキですら、戦いながら初めの内は困惑に満ちていた。
「ゴール・D・ブリュンヒルデ……ロジャーの妹じゃったとは……」
「ヒルデが、何故あんなにロジャーに執着してたのか、ようやく合点がいったよ」
「まったくだ。兄妹そろって、とんでもない事をやらかすわい！」
窓の外を見ながら、その実、彼の目はいつかの記憶があり映されている。
ヒルデの言葉をそのまま鵜呑みにする訳ではないが、事実確認の途中報告でも裏付けが取れ始めている。
彼女は能力者となる以前、黒髪黒目で生まれは東の海ローグ・タウンであると自ら口にしていた。詳細を辿れば、ヒルデの言葉を証明する物ばかりだ。
『……ロジャーを、この手で捉えたかったですっ、ガープ、様……っ』
ロジャー出頭時、そう言って口惜し気に溢していたあの言葉はきっと紛れも無いヒルデの本音だったのだろう。
血は水よりも濃い。
その言葉通り“血縁”というのは当人がどう望もうと簡単に切り捨てられる物ではない。
『中将です！ガープ様、私ついに中将に成りました！！』
正義を信じ、人々の幸福を願い、世界の平和を守ろうと、より善い明日の為にと在り続けたヒルデガルドの姿に嘘偽りは無かった。
『誰かの為に、皆がそう願える世界になれば、きっと……私、諦めません。だって、愛していますから』
あの娘は、優しかった。
『私は、あの子を、殺させない……っ！』
あの娘は、優しかった。きっと、ずっと、誰よりも。何よりも。
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きょ(プロフ) - こんなに胸が締め付けられて、感動するお話は初めてです。どれだけ言葉を重ねても、作品を前にすると薄っぺらくなりそうなので一言、素晴らしい作品ですとお伝えできれば嬉しいです。 (2021年3月31日 23時) (
レス) id: 4c3e312f20 (このIDを非表示/違反報告)
カラフィナ(プロフ) - アルっさんさん» ドゥムジさん、その節（イベント）はお世話になっておりますどうぞこれからも宜しくお願いします……（ありがとうございます。確かにヒルデ＝ブリュンヒルデという訳ではないのですが、限りなくそれに近い解釈で大丈夫です。私も見ないな〜と思って書きました。） (2019年9月30日 11時) (レス) id: bf6d2ed987 (このIDを非表示/違反報告)
アルっさん(プロフ) - とても素敵ですね。この作品がいつか多くの人の目に留まることを祈っています。ドゥムジです。(偉そうな口聞いてすみません応援しております。英雄王ならよく見ますがブリュンヒルデ(の様な夢主)が主人公なのは初めて見るので続きめっちゃ楽しみにしております。) (2019年9月30日 10時) (レス) id: cdae6f79c4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：カラフィナ | 作成日時：2019年8月10日 10時
