愛の為に ページ20
エースはまったく困ってしまった。
今やヒルデはさめざめと涙を流して啜り泣き、しかしそれでも美しい顔を歪めて嗚咽を漏らしている。
恐らくその原因は、己の不用意な言葉のせいに違いなかった。
けれど、笑顔が辛そうに見えたのは本当の事であり、エースはそうやって笑われても黙っていられる性質ではない。
「うっ……ひっく……私、私……っ」
エースが困惑しているのを気配で感じながらも、ヒルデは次から次へと溢れてくる涙を止める事が出来なかった。
あまりにも、自分の奥底に隠れていた核心を突かれて対処しきれない。痛みにも、苦しみにも似たそれは、ヒルデが抱いていた正義への愛情だった。
裏切ったのは自分だというのに、裏切っておいて、裏切られたような絶望感を抱くなど都合が良いにも程があろう。
そうやって思うのに、涙は止まってくれなかった。
「…………泣かないで、くれよ」
どうした良いのか分からなくなる、とエースがぶっきらぼうに言った。もう少し他の言い方は無かったのかと思わなくもないが、エースはエースなりに頑張った結果である。彼にしてみれば上出来だろう。
『頼むから、泣くなよヒルデ……！！』
声も、言葉も、何一つ似ていないのに、思い出すのは封じ込めた筈の最愛の記憶ばかりで、また、涙が滲む。もう、二度と重ねたくなかったのに。
「ごめん、なさい、」
きっと恐らく、海軍に居続ける事が可能だったならば、今こんな風に思い出して涙する事もなかった。
それでも、こうして泣いている。思い出し、想い出す。正義を信じていた頃には叶えられなかった行いで、幸せとも言える涙に濡れて、だからこそ、ヒルデは苦痛に苛まれた。
ヒルデガルドだった、あの時、あの瞬間まで正義はその心の中に宿り確かに輝いていた。
ガープは女である事を理由にしなかった。センゴクは正当な評価をしてくれた。おつるは娘のように可愛がってくれた。サカズキとは何度も衝突して諍いは絶えなかったけれど、彼はヒルデを対等に扱った。
嬉しかったのに、幸せだったのに。
全部、全部、ヒルデが吐くしかなかった嘘の上で成り立つ居場所だったけれど、確かに、あの場を、あの人達を、愛していた。
愛している、のに。
「ごめんなさい……」
ヒルデは、愛している人を裏切って殺そうとした。
きっと、これからもずっとそうするだろう。
愛する為に。
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きょ(プロフ) - こんなに胸が締め付けられて、感動するお話は初めてです。どれだけ言葉を重ねても、作品を前にすると薄っぺらくなりそうなので一言、素晴らしい作品ですとお伝えできれば嬉しいです。 (2021年3月31日 23時) (
レス) id: 4c3e312f20 (このIDを非表示/違反報告)
カラフィナ(プロフ) - アルっさんさん» ドゥムジさん、その節（イベント）はお世話になっておりますどうぞこれからも宜しくお願いします……（ありがとうございます。確かにヒルデ＝ブリュンヒルデという訳ではないのですが、限りなくそれに近い解釈で大丈夫です。私も見ないな〜と思って書きました。） (2019年9月30日 11時) (レス) id: bf6d2ed987 (このIDを非表示/違反報告)
アルっさん(プロフ) - とても素敵ですね。この作品がいつか多くの人の目に留まることを祈っています。ドゥムジです。(偉そうな口聞いてすみません応援しております。英雄王ならよく見ますがブリュンヒルデ(の様な夢主)が主人公なのは初めて見るので続きめっちゃ楽しみにしております。) (2019年9月30日 10時) (レス) id: cdae6f79c4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：カラフィナ | 作成日時：2019年8月10日 10時
