戸惑いの眼差し ページ17
声を聞いて、ヒルデはゆっくりと瞼を開く。
あの戦場で耳にしたその声に、心臓の何処かが震えたのが分かる。恐怖にも興奮にも似たよく分からない感情の昂りが心を締め付けた。
対面を果たしたマルコは空気を読んでその場から辞退して、甲板にいた船員達にもそれとなく退くよう指示してその場から姿を消した。
(あ……嗚呼、やっぱり)
二人っきりになって、しかし、その事にも気付かず二人は向かい合った。
自分と同じく、所々は包帯で包まれた体でそれでも傷付いて泥に汚れたあの時とは違い、血色の良い顔にヒルデは泣きそうになって笑った。
「ちっとも、似てない」
「っ───！！」
「全然、違いますね、貴方」
ニューゲートによく似てる、とヒルデはそう言った。
助けたあの瞬間、振り返って見たエースに感じた堪らなくなる様な懐かしい面影は明るい太陽の下で見れば見る程、何処にも無かった。
顔立ちや背格好の話ではなく、その纏う空気や仕草や表情などには家族を愛して止まない偉大な漢の面影の方がもっとずっと色濃く受け継がれている。
エースと彼との間には血よりも濃い親子の絆があったのだと顔を綻ばせた。
そんなヒルデの言葉に対してエースは何とも言えない複雑な心境を抱いていた。
似ていない、と彼女が誰と己を見比べてそう言ったのか察してカッと頭に血が上りかけて、その先に続いた言葉と“あの眼差し”に熱くなりかけた思考が冷える。
「…………あんた、何で、そんな目で見るんだよ」
「？そんな、目？」
真っ直ぐ問われヒルデは何の事か分からないらしく、困ったように曖昧な表情を浮かべた。
無自覚であるらしい事に、エースは顔を顰め、言葉を続けた。
「オヤジと、同じだ……」
最期まで、エースを愛しの息子だと笑ってくれた人。
慈愛のこもった眼差しはいつだって自分達を温かく見守ってくれていた。
ヒルデが戦場で向けたあの妙に穏やかな眼差しは、その時には分からなかった。あまりにもあの場には似合わない、随分とかけ離れた物だったから。
ましてや、ヒルデとエースは初対面だった。
だから、余計に分からない。
あの時も、今も、何故彼女がこんなにも優しい目をしているのか。
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きょ(プロフ) - こんなに胸が締め付けられて、感動するお話は初めてです。どれだけ言葉を重ねても、作品を前にすると薄っぺらくなりそうなので一言、素晴らしい作品ですとお伝えできれば嬉しいです。 (2021年3月31日 23時) (
レス) id: 4c3e312f20 (このIDを非表示/違反報告)
カラフィナ(プロフ) - アルっさんさん» ドゥムジさん、その節（イベント）はお世話になっておりますどうぞこれからも宜しくお願いします……（ありがとうございます。確かにヒルデ＝ブリュンヒルデという訳ではないのですが、限りなくそれに近い解釈で大丈夫です。私も見ないな〜と思って書きました。） (2019年9月30日 11時) (レス) id: bf6d2ed987 (このIDを非表示/違反報告)
アルっさん(プロフ) - とても素敵ですね。この作品がいつか多くの人の目に留まることを祈っています。ドゥムジです。(偉そうな口聞いてすみません応援しております。英雄王ならよく見ますがブリュンヒルデ(の様な夢主)が主人公なのは初めて見るので続きめっちゃ楽しみにしております。) (2019年9月30日 10時) (レス) id: cdae6f79c4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：カラフィナ | 作成日時：2019年8月10日 10時
