裏切りの戦乙女 ページ1
何故と、問われてもただ嫌だったからと答えるだろう。
嗚呼、やはりと、何処か納得しながらも呆然と今しがた己が何をしたのか頭の中で反芻する。
震えすら起こらない、全身が凍り付いたように硬直して見つめる先に驚愕で目を見開く黒髪の彼がヒルデを見ていた。
その顔が、とても、懐かしくて。
堪らなくて。
「───あぁ、無事ですね。無事なら、良かった」
「あんた、なんで、」
「さぁ、どうかもう行って下さい。きっと、
「っ、ルフィっ！！」
彼女の言葉にエースは弾かれるように背に庇った大事な兄弟を振り返り見た。満身創痍、全身を傷だらけにして座り込むルフィの息は上がりっぱなしで体力も気力も底をついているのだと一目で分かる。
そんな風になってまで自分の事を助けに来たのだと、熱くなっていた思考が急速に冷えて行く。
「さぁ、さぁ、お早く───後は、私が引き止めますから」
言いたい事も、聞きたい事も沢山あった。けれど今はそれ以上に、この完全に逃れられるチャンスを不意に出来なかった。
エースを見つめて語り掛けるヒルデの眼差しと声があまりに場違いに穏やかな物だから、訳も分からない衝動に突き動かされて、駆け出した。
「ルフィ！！行くぞ、走れ！！」
「おうっ！！」
そうして二人の海賊兄弟は走り出す。
湧き上がった歓声に迎えられ、予期せぬ彼女の行いに茫然自失とした怒声に追われ、それでももう止まらない。
走り去る最後の瞬間に、垣間見た彼女の表情は慈しみに溢れていた。
烟る紫水晶の瞳が遠ざかって行く彼らを眺める。
「……これで、良かったのですね」
ポートガス・D・エースは今日、処刑される筈の死刑囚に他ならなかった。
海軍が忌むべき絶対悪の血筋、海賊王の実子たる海賊を生かしておく訳にはいかなかった。
つまり、彼女、シグルドリーヴァ・ヒルデガルドは到底赦されぬ裏切りを行った事となる。
「お、どれ、この裏切りもんがああああぁぁぁあああッッッ！！！！」
怒声、怒気、憎悪、殺意、凡そ怒りという感情の全てを持ってして激昂したのは海軍大将が一人、サカズキであった。
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きょ(プロフ) - こんなに胸が締め付けられて、感動するお話は初めてです。どれだけ言葉を重ねても、作品を前にすると薄っぺらくなりそうなので一言、素晴らしい作品ですとお伝えできれば嬉しいです。 (2021年3月31日 23時) (
レス) id: 4c3e312f20 (このIDを非表示/違反報告)
カラフィナ(プロフ) - アルっさんさん» ドゥムジさん、その節（イベント）はお世話になっておりますどうぞこれからも宜しくお願いします……（ありがとうございます。確かにヒルデ＝ブリュンヒルデという訳ではないのですが、限りなくそれに近い解釈で大丈夫です。私も見ないな〜と思って書きました。） (2019年9月30日 11時) (レス) id: bf6d2ed987 (このIDを非表示/違反報告)
アルっさん(プロフ) - とても素敵ですね。この作品がいつか多くの人の目に留まることを祈っています。ドゥムジです。(偉そうな口聞いてすみません応援しております。英雄王ならよく見ますがブリュンヒルデ(の様な夢主)が主人公なのは初めて見るので続きめっちゃ楽しみにしております。) (2019年9月30日 10時) (レス) id: cdae6f79c4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：カラフィナ | 作成日時：2019年8月10日 10時
