教師と母と…、 ページ40
相「…泣きすぎだ」
『、……夫のこんな姿見たら、誰だって泣いちゃうよ…』
相「そうかい…」
口元の包帯が動き、目は隙間から覗くような感じ。
重ねた手が微かに震えて、またすぐにくたりと動かなくなる。
相「悪い…手、握り返してやれねぇ」
『…いいよ…、大丈夫…、』
怪我の負担にならないよう首に手を回し、緩く抱き締める。肩に顔をうずめ、涙も震える声も隠さず、彼に抱き着いた。
『ちゃんと治して…返してくれればいい…』
普段より少し高めな熱と、規則正しく刻む鼓動の音。
消太が生きている証。それが嬉しいのに、自分の中にはもうそれが無いのだと、実感してしまう。
相「…怪我は、大丈夫なのか」
『だいじょうぶ…』
相「……そうか」
自分の方が酷いのに。最後の掠れた声から、微かに安堵した色が見えた。
相「…ばあさんから聞いた。生徒を守ってくれて、ありがとうな」
『……そんなこと、ない…よ』
教師として生徒を守るのは当たり前の事だ。
消太も13号もそれで怪我を負って、私の怪我も、同じ理由。
ありがとうと言われるのも、流れとしては当然なのかもしれない。
でも今は、彼の言葉を素直に受け取れない。
赤ちゃんとの約束を守れなかった。
生きる事を、教えてあげられなかった。
母親ではなく、先生を選んだ。
後悔と謝罪と、そればかりが渦巻く自分が嫌になる。
優しい言葉をかけられる資格なんて…ない。
無意識に手に力が籠り、きっとその手は震えていた。
相「…正しい事をした。お前が責任を負う必要はない」
分かってる。
消太は優しい人だから。私の事を思って言ってくれているのも。
相「A…」
名前を呼ばれるだけで、胸が苦しくて、喉元に何かが込み上げてくる。
彼が首を少し傾け、頬がこめかみ辺りに触れた。
相「お前が無事で、良かった。」
『、……』
ほんとは…、怒って欲しかった。
消太に全部話して、責めて欲しかった。
なのに…
彼の優しさに安心してしまった…。
嬉しく思ってしまった…。
そう思ってしまった自分が嫌で、腹立たしくて…。
『……ごめん、なさい…』
心配してくれて、でもなく。
ありがとう、でもなく。
零れた言葉がそれだった。
誰に謝っているのか分からなくて、
でも謝らなきゃいけない人は沢山いて。
どうしたらいいのか分からないのに、涙だけは溢れてくる。
止まらなくて、止められなくて。
心の痛みが鈍くなるまで、
ずっとずっと泣き続けた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1049人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
とよ(プロフ) - 初コメ失礼します。尊い、、尊き、、なにこの幸せおしどり夫婦もう一緒抱きつき合って幸せになっていやがれ！！と心の周波数が乱れ、思わず叫んでしまいました。無理せず更新はいつでも気長に待ってます！この作品大好きです！あと相澤先生もす((((( (2023年3月2日 21時) (
レス) @page49 id: d1624c287f (このIDを非表示/違反報告)
シュリ(プロフ) - りゅうさん» りゅうさんお久しぶりです！この展開は前々から考えていたシナリオでした。読者の方々が望んでいた物語ではなかったかもしれませんが、もう少しだけ2人の話に付き合って頂けると幸いです。作品を読んでくださりありがとうございます！(*^^*) (2020年3月26日 20時) (レス) id: 6347914aa2 (このIDを非表示/違反報告)
シュリ(プロフ) - _Mikado_さん» _Mikado_さんコメントありがとうございます(*^^*)楽しみにして下さってありがとうございます！これからもよろしくお願いいたします！ (2020年3月26日 19時) (レス) id: 6347914aa2 (このIDを非表示/違反報告)
りゅう - こんばんは！最新話拝見致しました(涙)まさかと思いながら小説を読んでいて自分自身も悲しい思いでいっぱいです… (2020年3月26日 19時) (レス) id: 18e42f338b (このIDを非表示/違反報告)
_Mikado_(プロフ) - 続きたのしみです！更新頑張ってください！ (2020年3月26日 17時) (レス) id: f327cce89d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：シュリ | 作成日時：2020年3月4日 1時
