知らない ページ35
誰かに意思を伝える事は、とても怖い。
それが相反するものであれば尚更。
大切な人を心配する気持ちも失う怖さも痛い程分かる。
同時に、夢や憧れの為にひたむきに努力している彼女達も、知っている。
だからこそ、伝えたかった。
葉「…先生の仰りたい事は、分かりました」
静まり返った部屋に、彼女の声が響く。
その声は、まだ少し怒りも混じっている。
葉「私の我儘なのは充分分かっています。透の夢だって応援してあげたい…、でもっ…あの子が傷付く姿を笑って見ていられる程私は強くありません！
失って後悔するくらいなら、私は娘を辞めさせます」
もし、彼女の顔が見えたなら強い意志を宿した瞳をしているのだろう。
葉「あの子は、私の大切な娘なんです」
頭を強く殴られたような、そんな衝撃に襲われる。
心臓が音を立てて鼓動を速くし、机の下で握りこんだ手に爪が食い込んで血が滲んだ。
今は、感傷に浸るときじゃない。
『…』
共感は…出来ていた。分かったつもりでいた。
でも、本当の意味で理解出来るはずもない。
私にとっての大切な人と、葉隠さんにとって大切な人は違う。当たり前の事だ。
当たり前な事なのに、大切な人に対する愛を同じ愛だと認識してしまっていた。
傷付いてほしくない。
思う言葉は一緒なのに、中身の形はあまりに違った。
『…出過ぎた真似を失礼致しました』
一度思考を戻す。
教師としての言葉も、一個人としての言葉も、もうこれ以上は続かない。
『透さんの自主退学のお話は、一度こちらで預からせて頂きます』
私だけでは判断できない。なのでちゃんと学校に相談する必要がある。ここで手続きはできない。
葉「よろしくお願いします」
『…申し訳ございません。最後に、一つだけ』
私の思いは葉隠さんの想いと違っていた。けど、私が見た彼女達の姿は本当の姿だ。紛れもない事実だ。
だから
『透さんが目を覚ましたら、彼女とちゃんと話をしてあげて下さい。』
これだけは、言わなきゃいけない。そう思った。
────
──
応対室の椅子に座ったまま。
ずっと同じ事がぐるぐると、答えが出ない。
分からない。
考えても分からない。
私が消太に向ける愛と、葉隠さんが透さんに向ける愛は、愛だけど同じじゃない。
相愛、博愛、偏愛、敬愛、友愛、親愛。
形が違う事は分かる。でもどんな形か分からない。
だから、理解できない。
出来るはずも、ない。
私は、母からの愛を知らないのだから。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1723人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ムツキ(プロフ) - 面白かったです！続き楽しみにしています！ (2022年5月22日 13時) (
レス) id: 82e68addf8 (このIDを非表示/違反報告)
シュリ(プロフ) - りのさん» りのさんコメントありがとうございます(*^^*)更新遅れてしまいすみません(--;)次回も楽しみにして頂けたら幸いです！ (2021年11月19日 20時) (レス) id: 6347914aa2 (このIDを非表示/違反報告)
りの(プロフ) - 更新嬉しいです！これからも頑張ってください！ (2021年11月17日 18時) (レス) @page45 id: ded004bcdf (このIDを非表示/違反報告)
シュリ(プロフ) - うみさん» うみさんコメントありがとうございます(*´ω`*)続きが楽しみと仰っていただいてとても嬉しいです！更新が遅れていますが、なるべく早く掲載できるように頑張ります！ (2021年9月20日 14時) (レス) id: 6347914aa2 (このIDを非表示/違反報告)
うみ - すごく面白くて続きが気になります。お忙しいでしょうが更新頑張ってください。楽しみに待っています。 (2021年9月17日 20時) (レス) id: 9b9e486fdc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：シュリ | 作成日時：2020年4月7日 22時
