知っている ページ34
葉［ねぇねぇ風衹先生。私ね、皆を笑顔にするヒーローになりたいんだ。
でも姿も顔も見えないから、難しいなって思ったりもするの］
葉［先生。わたし、ヒーローになれるかな？］
いつも明るい彼女が、ふと零した言葉。
目の前にあるだろう視線を合わせたら、先生の目って綺麗だねー！と明るい声が響く。
ありがとうと笑顔で返して、あ！もう帰らなきゃと踵を返す彼女の背中に、『葉隠さん』と呼び掛けた。
『私は─』
───
『私は、葉隠さんにはヒーローになってもらいたいです』
こんな事を言える立場でないのは分かっている。
葉隠さんが今後どうしていくか、それを決める権利は葉隠さんと彼女の家族にあって、
ただの副担任が、口を出していいものじゃない。
それでも、真っ直ぐ彼女を見つめ返して言葉を紡いだ。
彼女も予想外の言葉だったのか、小さく息を飲む音が聞こえる。
葉「あ…、貴方は、あんな事件があった後でも、娘にヒーローになれと言うんですか」
落ち着いていた声は震えていた。少しだけ、怒りも混じえながら。
『はい。』
強い肯定も、曖昧な否定もしない。
ただ短く言葉を返すだけ。
葉「私は、娘に危ない目に遭ってほしくないんです。
大事に至らなかったとは言え敵に襲われて未だに目を覚まさないのに、親が子供を心配するのはいけない事ですか！」
『お母様が透さんを心配する気持ちは分かります。
ですが、透さんが目指している仕事は、常に安全とは言い切れません。
ヒーローとは危険な仕事なんです』
心の奥底から苦い何かが滲み出ようとする。
今は邪魔だとグッと抑え付けて、冷静に務めた。
『ただの憧れでヒーローを目指そうとする若者も確かにいます。それでも、』
TVで観る華々しい姿はヒーローの一側面でしかない。
怪我だってするし、最悪の事態が起こる可能性の方がずっと高い。
でも私は、知っている。
『それでも透さんは、必死に悩んで努力して、自分のなりたいものになろうと頑張っています。
勝手なのは重々承知しています。
ですがどうか、透さんの夢を応援してあげて下さい』
机の下で、爪痕が残る程強く掌を握り締めた。
熱くなるのは慣れてない。言いたい事は心に仕舞ってきたから。
それでも言わずにはいられなかった。
葉隠さんには、皆を笑顔にするヒーローになってほしいと思ったから。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1723人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ムツキ(プロフ) - 面白かったです！続き楽しみにしています！ (2022年5月22日 13時) (
レス) id: 82e68addf8 (このIDを非表示/違反報告)
シュリ(プロフ) - りのさん» りのさんコメントありがとうございます(*^^*)更新遅れてしまいすみません(--;)次回も楽しみにして頂けたら幸いです！ (2021年11月19日 20時) (レス) id: 6347914aa2 (このIDを非表示/違反報告)
りの(プロフ) - 更新嬉しいです！これからも頑張ってください！ (2021年11月17日 18時) (レス) @page45 id: ded004bcdf (このIDを非表示/違反報告)
シュリ(プロフ) - うみさん» うみさんコメントありがとうございます(*´ω`*)続きが楽しみと仰っていただいてとても嬉しいです！更新が遅れていますが、なるべく早く掲載できるように頑張ります！ (2021年9月20日 14時) (レス) id: 6347914aa2 (このIDを非表示/違反報告)
うみ - すごく面白くて続きが気になります。お忙しいでしょうが更新頑張ってください。楽しみに待っています。 (2021年9月17日 20時) (レス) id: 9b9e486fdc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：シュリ | 作成日時：2020年4月7日 22時
