�� - 003 愛に充ちて過ごせばよく眠れる ページ3
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「A！ 遊ぼう！」
冨岡義勇はよく
Aは笑顔でよく応えていた。照れ屋の妹を引っ張って三人で日が暮れるまで遊びに興じた。楽しかった一分一秒と一日一日を忘れることは無いだろう。
この日に何をしたのか。この日は何で遊んだのか。この日義勇は何時頃やって来たのかと問われても、Aは穏やかな笑みを口元にたたえて考え込むことも無く正解して見せるのだろう。
記憶は宝物で出会いは宝石。どんなに高い織物よりも大切で誰かと仲を深めていくそんな日々はAにとっても妹の千豆子にとっても一生の思い出であった。
義勇の姉──蔦子と初めて出会ったのは確か積雪量の多い冬真っ只中だった。
「あら。可愛らしい雪だるま」
玄関先で特大の雪だるまをせっせと一人、作り込んでいた時だったろうか。同じくらいの身長の儚げな女の子に笑いかけられた。第一声が自分の作品に対する褒め言葉で、Aはそれはもう嬉しくなって笑顔で頷いた。
その素敵な出会いを両親に話した。すると燐家の冨岡さんの娘さんだと聞かされてたいそう驚いた。腰を抜かして目を見張る我が子を両親は面白おかしそうに笑っていた。
彼女に弟ができたという吉報を聞いたのは蔦子と出逢った日と同じように雪の多い、冬の日だった。
「───い」
肌寒いなんてものではなかった。鳥肌がいっぱい立って鳥になってしまいそうだと父親と冗談半分本気半分で言い合った。腕を摩りながら冨岡家にお邪魔して、とある一室に通された。
「──おい」
そこにいたのは膝から下を布団に潜らせた蔦子の母親と、彼女の腕に抱きかかえられた赤子を興味深そうに丸い瞳で見つめる蔦子だった。
赤子は確かわんわんと泣いていて。蔦子は神秘でも目撃したかのように瞬きを繰り返していた。
「おい。餓鬼。聞いてんか」
要登Aは瞼をこじ開けた。何かとても幸福な夢に浸かっていた気がしたが、目線を上げれば心底面倒臭そうな表情で己と、己の背中で寝息を立てる義勇を見下ろす中年男性がいた。
右手には掃き掃除をする為の道具が握られており、ここは食事処の多い道の路地裏である。
Aは即座に立ち上がって頭を下げた。左の顔半分に包帯をこれでもかと巻いたまま。
「すまない。失礼した」
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作者名：糸針
| 作成日時：2019年10月25日 13時
