【文スト短編】悪夢の匣【ヤンデレ】 (ページ9)

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｢逢魔ヶ時｣京極夏彦(はるか様リク) ページ9

幽霊・妖怪・魑魅魍魎の類が1番出る時間帯はいつか。実は丑三つ時ではない。それは昼から夜へ移る時、夕日で辺りが真っ赤に染まる時、学生達が家路に着く時、逢魔ヶ時。私はこの時間帯が好きだ。昼間の喧騒はない。いつも夕日に照らされた遊歩道を一人歩き、砂浜で黄昏れる。

そうして決まって彼に会う。

｢のう、A｣

｢こんにちは、京極さん。もうすぐこんばんはですけど。｣

普通の人は彼が見えないのだそうだ。何故私に見えて、話が出来るのかはわからない。彼は何か知っているようだが、教えてくれない。

｢なんじゃ、その面持ちは。考え事かの？ふふ、難しい顔をしたAも可愛らしい。｣

｢京極さん、質問してもいいですか？｣

｢儂にか。よいぞ、なんでも答えよう。Aは、可愛いからの。｣

京極さんはいつも私に可愛いと言う。

｢何故私はあなたが見えるのかしら。あなたは何故私に会いに来るのかしら。あなたは、何者なんです？｣

｢Aや、いつも一緒に帰ってくるあの少女は最近どうした？｣

｢質問の答えに…｣

｢A、お前は最近いつも一人じゃ。構ってくれる人は儂の他におるかね？｣

｢それは、｣
｢儂に会うようになってから、みんなみんな、Aから離れていくのう。悲しい事じゃ。嬉しい事じゃ。｣

……なんとなく、気付いてはいたのだ。

どうしていきなり友達から無視されるようになったのか、家族から、社会から、無視されるようになったのか。

｢Aや、儂は、Aが儂を見えるようになるずっと前からAを見ていたぞ。やっと気付いたか、自分が何者か、何者になったのか。｣

ふふふ、と控えめに笑う京極さんは、やっぱり優しそう。彼と世界から隔離されて二人きりでいるのも、悪くないかも。

｢ねぇ、私、逢魔ヶ時にしか会えないのが嫌だわ。｣

｢その言葉がAから出るのを待ってての。｣

もう、日は落ちてしまった。