視線 長谷部視点 ページ6
─────翌日。
いつも通り仕事をこなした後は手を止めて一息つく。今こそただの会社員だが、実際の正体は違う。
(今日は“主”もこちらでの仕事だったな。主自ら望んだとはいえ、清掃員をやらせてしまうなんて……)
そう。俺には仕えている主がおり、今俺が働いている会社で清掃員をしている。
本来俺達はここに居るべき者でもなければ、この時代の者でもない。
時の政府から“ある任務”を任され、仕方なくこの令和の時代に来て仕事をしているのだ。
手洗いに行こうと廊下に出れば、丁度主が居た。
一言声を掛けようとするも、金城が話しかけているのに気付く。
(珍しい。何を話してるんだ)
二人が別れたあと、金城と視線が合い「長谷部さんお疲れ様〜」と軽く挨拶をされる。
「……何を話していたんだ？」
「ん？あぁ、アニメの話ですよ。堀川くんがAさんアニメ好きだって言ってたし。それに、うちの会社近頃はアニメ関連の案件も多いから話聞いて参考にしようかと」
(確かに主は本丸に籠っていることが多くて自然とそういったものを幅広く見始め、好きになったようだが……)
「けど、まさかAさんが✕✕のアニメを知ってるなんてね〜。語りた〜」
(む？知らんな……。主の観たアニメも映画も把握していたつもりだったが……最近見始めたのだろうか？)
「どんな内容なんだ？」
金城は快くアニメの内容を教えてくれて、最後に「もし興味があれば観て見てください」と勧めてくる。
「そのつもりだ」
「えっ」
「何だ」
「自分で勧めておいてなんですけど、アニメとか観るんですか？」
「……俺がというより、知人がアニメ好きで一緒に観ることがあるだけだ」
「へぇ〜。それでも意外っすね。その子、グッズ集めたりは？」
「あるにはあるが、ほとんど友人からの貰い物らしくて熱心に集めている訳ではなさそうだったな。本人が買うものと言えば、主にファイルだな」
「実用的〜。Aさんも同じだって」
「そ、そうか」
金城に言われて一瞬、ギクッとするが話し終えた後は手洗いを済まし、仕事場に戻る。どうしてか金城や桃瀬、主任、課長の視線が一斉にこちらに集中するが、何事も無かったかのように全員が「さて、仕事仕事〜」「今日も目指せ定時」と仕事をし始める。
(何なんだ？)
俺に向けられた視線の意味を知るまで、そう時間はかからなかった。
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作者名：山猫 | 作成日時：2016年5月2日 2時
