課長は仲良くなりたい 青山視点 ページ3
長谷部くんは仕事をきっちりこなし、定時になると挨拶を済ませて素早く帰って行く。
以前、ダメ元で金城くん達が飲みに誘ったらしいがご丁寧に断られたとか。
もう少し部下と仲良くなりたいと思う反面、しつこく声を掛け過ぎて辞められたくもなければ、嫌われたくもない。
(でもやっぱり仲良くなりたい……)
今日は長谷部くんと二人で取引先の会社へ歩いているが、沈黙が気まずい。
途中、くまってちゃんのグッズが売られているお店を発見し、つい反応してしまう。
しまった、と思いつつ長谷部くんの様子を伺えば、長谷部くんもジッとくまってちゃんを見つめていた。
(ま、まさか……)
「長谷部くん、くまってちゃん好きだったりする？」
「えっ！？いえ、そういう訳では……」
「そっかぁ……」
「俺、というより知人が……ぬいぐるみとか、好きで……」
「そうなんだ。帰り、寄ってく？私が寄りたいだけなんだけど」
「……では、ご一緒します」
─────仕事の帰り、私達は気になっていたお店に寄った。
長谷部くんは真剣な表情でぬいぐるみを選んでいたが、最終的に中サイズのくまってちゃんとそこのお店だけの、期間限定ストラップを買っていた。
先程言っていた知人に渡すのだろうと頭で分かっていても、堅物そうな長谷部くんとくまってちゃんの組み合わせは意外で、可愛く見えた。
くまってちゃんグッズも買えたし、知人が誰だかは知らないが、ちょっとだけ長谷部くんと仲良くなれた気がしてその日、私はご機嫌のまま家へ帰れたのだった。そして、翌日。
(昨日一緒に買い物出来たし、今日は何時もより長谷部くんに話しかけてみようかな)
会社の廊下を歩いていると、目の前から清掃員の女性が掃除道具を持って歩いてくる。
互いに「おはようございます」と挨拶し、通り過ぎようとしたが私は見逃さなかった。
(アレって……)
足を止め、振り返る。
女性清掃員のズボンのポケットから、くまってちゃんのストラップが出ていたのだ。
何に付けているかは分からないが、これだけは分かる。
(あの店だけの、期間限定ストラップ……)
“知人が、ぬいぐるみとか、好きで……”
「まさか、ね」
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作者名：山猫 | 作成日時：2016年5月2日 2時
