１８◆うつろな瞳 ページ19
「…大野さん」
部屋を出てカウンターに向かってそっと声をかけたけど、
小柄な背中はピクリとも反応しない。
カウンターの中に立つ先輩を見たら、
先輩は黙って肩をすくめ小さく首を振った。
「大野さん？」
「…うん？ ああAちゃんか」
すぐ横に立った私の気配にハッとした大野さんが、
こちらを見上げてニコリと笑う。
けれどほんの一瞬前まで見せていたのは、
すっかり氷の溶けたグラスを持ち、
ぼんやりとうつろに手元を見つめる暗い横顔だった。
「お待たせしました。どうぞ、中に」
「え…あ、俺？」
「はい」
その顔から笑みが抜け落ちる。
チラリと個室のドアに目をやり、
大野さんは苦しそうに呟いた。
「いいんかな、俺で…」
消えそうなその声に、
先ほどの彼女の言葉が重なって聞こえた。
『私なんかが、そばにいていいのかな…』
大野さんの苦しみも美沙ちゃんと同じなのだろうと、
憔悴したその横顔を見て思った。
互いに、その相手でなければならなかった。
けれど自分の存在がいつしか相手の重荷となり、
苦しめているのではないかという不安―――
「…」
けれどその不安は２人で解決すべきものだ。
私の役割はここで終わり。
「さ、どうぞ。
美沙ちゃんがお待ちですよ」
促す私にハッとして、
大野さんはストンとスツールからおりた。
「後でなにかあったかいものお出ししますから」
「ん。あんがとねAちゃん。
あ、テッちゃんもホント。ごめんな」
律儀に先輩に向かって手を上げ、
大野さんは緊張した様子で部屋に入っていった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 85人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
薫子(プロフ) - さやさん» ホント久々に宣言通り走り抜けました！３日の闇は全然残ってるんだけど、やけくそパワーで乗り切れたので結果オーライかな？最後までお付き合いいただきどうもありがとうございました！！ (2019年1月5日 13時) (
レス) id: aa5d845008 (このIDを非表示/違反報告)
さや(プロフ) - 久しぶりの短距離走でしたね？お疲れ様でした！闇が、じゃなくって奥が！深い強いお話でした。3日の闇が残るかｺｯｿﾘ心配してましたが、流石プロだ♪ヽ(´▽｀)/完全内輪の内に入って読ませて頂きました！ありがとうございました！ (2019年1月5日 12時) (レス) id: d0bf1f7a31 (このIDを非表示/違反報告)
薫子(プロフ) - さやさん» 明けましておめでとうございます♪今まで部分的にしか出してこなかった彼女たちの物語ということで、何とかカタチになってよかったです。新鮮に読んでいただけてたら嬉しいな♪二宮の和也氏には早く動くように伝えときますｗ 今年もどうぞよろしくお願いします！ (2019年1月2日 20時) (レス) id: bb4ba45953 (このIDを非表示/違反報告)
さや(プロフ) - 久しぶりにまぁくんちの薫子さんに逢えて嬉しい短編！彼女たちの状況は分からない(←あたりまえ)のに、涙が溢れます！涙で明けた2019年！今年も薫子さんの相葉之雅紀氏に…違うや二宮之和也氏に会えることを楽しみにしています(^^) (2019年1月2日 8時) (レス) id: d0bf1f7a31 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：薫子
| 作成日時：2018年12月27日 10時
