嫌いの距離とその温度【アナタシア】 (ページ7)

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健くんと別れて、家の前の自販機でジュースを買って帰ろうと財布を出したときだった。

僕を大切にしなかった君が

ここ最近、ずっと耳にしていたフレーズ。少し前に見つけてから、ずっと気になっていたもの。先程までタシアのメンバーと共に頭を悩ませながら聞いていたフレーズ。

50円玉と100円玉の見分けがいつもつかないんだと、一人財布を覗き込みながらしわをよせていた額からスッと力が抜けた。

妙に冷静になって、握ったのが100円玉だってことも気にすることができなかった。

他の誰かを思って僕と同じように泣いたりとか

そんな日が来るんだとしたら

その日に僕は死んでしまおう

何でなんて聞かないから

僕をころして君もしんでよ

灯りの少ない路地の、暗がりの歌。カツカツと小気味のよい、所謂良い女の履きそうなハイヒールの音と共に、その歌声は近づいてきた。

なんでか、確信していた。それは歌声があの動画の声と似ていたからとか、妙に上手だからとかではなく、いや、それも確かにあったのだけれど、気にしていられなかった。分からないけれど、そんなのは抜きにして確信していた。

あ、この人。

ショートヘアの、涼し気な目元の美人だった。

鼻筋が通っていて、唇はぽってりと濃い赤に染まった色白な肌の女性。

すこぶる気の強そうな彼女の手には、光るスマートフォンがあって。

彼女のその美しい顔が、自動販売機の灯りに晒されたとき、俺たちははじめて目を合わせた。

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