嫌いの距離とその温度【アナタシア】 (ページ4)

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『関係代名詞は？』

「……which,who,that」

目の前の制服姿の少女が、私の問いかけに答える。まるで蚊の鳴くような声だが、こんなのを聞き分けるのは私は慣れていた。

『そう、その3つがあったよね、じゃあ先行詞ってなんのことだった？』

「…………」

I have a brother.
(私には兄がいます)

He likes cat.
(彼は猫が好きです)

『この二つの文をがっちゃんこしたいときに関係代名詞を使うんよな？』

こくりと少女が頷く。

『でもただくっつけるだけじゃ気持ち悪いんよ、なんでだと思う？』

「…………」

『この二つの文をただくっつけちゃうと、一文の中におんなじ登場人物が二人も出てきちゃうことになるんよ、それは誰？』

「……ブラザー」

『そう、最初の文のbrotherと2つめの文のHeはおんなじ人だよね。こういう時、一文の中に同じ人が二人も出てくると気持ち悪いから、二文目で後出しのHeの方を関係代名詞に変えて……』

バインダーに挟んだ紙切れに書いた二文のうちの一つ、He likes cat.のHeにバツをし、whoに書き換える。

『で、ここを関係代名詞にかきかえちゃえば後は最初の文にぶち繋げるだけ。簡単でしょ？』

塾講師は楽じゃない。そりゃ当たり前だ。

中高生とはいえ、人一人の成績や進路を握る大切な仕事。大切なだけに、責任も重くのしかかる。少し触りで教えれば理解する生徒もいるし、どれだけ詳しく一生懸命説明しても分からない生徒もいる。

前の生徒で通用した解説も、次の生徒には通用しない。前の生徒で通じなかった例えも、次の生徒には通じたりする。

結局は人と人との対話であり、生徒もひと括りに生徒と名付けられているけれど、やっぱり一人一人全く違う人なのだ。

講師ともなれば、小さなミスも見逃してはならない。例えばaやan、theなど、定冠詞の有無やそれが適切かどうかも。

『これ、なんで間違いだとおもう？』

「わからない…、」

『He doesn't like a dog."a"や"an"っていうのはね、定冠詞って言うんだけど、一つのものを指すときに使うの。ボールがひとつならa ball、りんごがひとつならan apple。これだと、"一匹の犬が嫌いです"って意味になるから、じゃあ二匹以上なら好きなの？ってなっちゃうんよ』

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