嫌いの距離とその温度【アナタシア】 (ページ3)

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激しくかき鳴らされるピアノの音が糸を切ったかの如く途切れて終わったその曲。曲名は「トキシック」だった。

確かに、遅効性の毒みたいにドクドクと体を巡って頭をじんじんさせるような曲だった。

攻撃的で、挑発的で、自棄を含んだ執着を叩きつけられるような。

休憩時間の15分を過ぎているのも忘れて、僕らは貝のように黙り込んでしまっていた。

「……なんか」

その沈黙を破ったのはメンバーの中で一際背の高い健くんだった。

「痛い曲だったな。いや、悪い意味じゃなくてこう、傷つけられた気持ちになる。」

また沈黙。でも今度のは、きっと同意の沈黙だった。

「僕をころして君もしんでよ」なんて、強烈なフレーズだ。
頭の中をぐるぐると回って、まさに「トキシック」だった。

乱暴だけれど一音たりとも無駄な音のないピアノ、驚異的なテクニックのドラムに、どこまでも静寂を裂いていきそうな伸びのあるボーカル。

「俺、これ踊ってみたい。」

その場の誰もがそう思っていたことはもう分かりきっていた。いくらも一緒にいるのだ、お互いの考えてることなんて空気で分かるし、何よりもここまで一緒にやってこれたほど感性が合うのだから。

でも、一番最初にそれを言うのは俺でありたかった。なんでか分からないけれど。俺が最初に言いたかった。

「うん、俺も」

「これはたしかに踊りたい」

賛同の声が上がる。一人、また一人と呪縛が解けたように表情が解けてゆく。

「でもさ、」

その雰囲気を一気に現実に引き戻したのは、まりんくんだった。

「この人って、どういう人なんだろうね。作詞も作曲も自分でやってるっぽいし、ボーカルも……ボカロPでもなければ歌い手でもないっていうか」

そもそも許可とろうにも、たまにしか浮上しないし連絡先も分からないんだよね？

登録者数は155人、動画はたったの5本、最後の投稿は二ヶ月前で、チャンネル名は「煙根」と書いてエンネ。

今俺たちが知り得ている情報はたったのそれっぽっちしかなかった。

ツイッターもインスタグラムも見つからず、今のところは連絡の取りようもない謎の人。

「俺、帰ってから色々と調べてみるよ」

ツイッターやインスタグラムがなくても、もしかしたらTumblrとかニコニコで見つかるかもしれないし。

俺がそう言うと、メンバーたちは次々に「俺も調べてみる。」「探すしかないよなぁ、良い曲だもん」と、協力する姿勢を見せてくれた。

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