嫌いの距離とその温度【アナタシア】 (ページ2)

今日:4 hit、昨日:1 hit、合計:6,317 hit

2 ページ2

.

「まさと、何見てんの？」

唐突に叩かれた肩に若干の驚きを感じながら振り返ると、踊り手仲間のまりんくんがいた。

俺たちアナタシアは、みんなそれぞれの生活もある中で予定をすりあわせては練習時間を確保し、次の動画やイベントに向けての練習を行っている。今日はそんな決して多くはない夜練習の日だった。

休憩中、ずっと食い入るようにスマホの画面を見ていたのが気になったのだろう。彼は隣に座り込み、何見てんの？と先程と同じように問いかける。

「これ、前からずっと気になってる人なんだけど」

「なになに？けむりね？」

「違う、難しい読みなんだけど、エンネって読むらしい。」

「エンネ……？」

「うん、2年前から不定期に曲をあげてる人なんだけど、作詞も作曲も……多分ボーカルも一人でやってるっぽい」

アイコンは可愛いうさぎのイラストで、登録者数は155人、アップロードした動画の本数は5本。

2年前から活動してるにしては少なすぎるし、かといってずっと触ってないチャンネルって訳でもないらしい。一つ前の投稿は二ヶ月前だ。

「どんな曲だしてるん？聞いてみたい」

まりんくんが興味を示したらしく、そう言う。それぞれに休憩をとっていた他のメンバーたちも、俺達が真剣な顔してスマホを覗き込んでいるのに何か感じ取ったのか寄ってきて同じように覗き込む。

「なになに？」

「新しく踊る曲？」

「まさとが見つけてきたん？」

「早く流せよ〜」

メンバーは割と自由で勝手なやつが多くて、口々にそんな言葉を浴びせてくる。

「わかったよ、わかったから！」

ほとんど再生済みの動画の中から、一番再生数の多いものを選んでタップする。

少しの静寂の後、俺達の耳に飛び込んできたのは、甘やかで冷たい女性の声だった。

僕を大切にしなかった君が

他の誰かを大切にするとか

他の誰かを思って僕と同じように泣いたりとか

そんな日が来るんだとしたら

その日に僕は死んでしまおう

何でなんて聞かないから

僕をころして君もしんでよ

.