欲しい＝正義４ ページ42
ｺﾞｫｵｵｵ ｺﾞｫｵｵｵ
A「窯、温度計付きの二層式にした」
千空「釜の上火と下火で別々に温度調整してぇんだろ」
普通のレンガだと高音ですぐ割れてしまうので、この二層式釜に使う耐熱レンガを作るため、粘土にシリカを混ぜるなどの工程をひそかに挟んでいる。
ﾌﾗﾝｿﾜ「素晴らしい。心より御礼申し上げます」
火の温度調整がより細かくできる釜が特に指示を出さずとも手に入ったフランソワが、注文のタイミングで有用さを知った千空が。パン作りというなんてことない日常の中でお互いの能力を認めあったのだ。
ﾌﾗﾝｿﾜ「完璧なおもてなしで全ての『欲しい』にお応えするのが私共の仕事。欲しい＝正義です」
捏ねあげたパンを成形し、天板にパンを並べる。
ﾌﾗﾝｿﾜ「固めのパンの場合、勝負は最初の9分間です」
龍水「ほぅ」
ﾌﾗﾝｿﾜ「釜伸び、つまりパンが膨らむのは焼き始めの9分だけ！そのわずかな時間でどれだけパンに熱エネルギーを伝えられるか。釜の気密性が重要に…」
パン生地が60℃に達するまで大きく釜伸びをする。なぜこの60℃に拘るのかというと、イーストが60℃以上になると死滅してしまい、それ以上アルコール発酵を行うことができなくなるからだ。
フランソワの話を聞いていた千空が釜の中に水を入れる。すると先よりずっと大きな音を立てて、釜が動いた。
千空「アホほど単純な科学だ。水蒸気のが空気よりゃはるかにエネルギー伝達の密度が高ぇ。ｸｸｸ、一気に熱ブチ込んどいてやったぞ……！！」
一分も経たないうちに香ばしい香りがあたりに漂う。香りに釣られて石神村の住民が集まってくる。
ﾌﾗﾝｿﾜ「……龍水様。私は執事として必ず七海財閥を復興します。この新世界を制するためには、石神千空そして櫻葉A。あの二人が＿＿＿絶対に欲しい」
龍水「ﾌｩﾝ、わかってるさ。何しろ俺は世界一の欲しがり屋だからな！」
香ばしい香りを漂わせ、焼き上がったシュトーレン。カットされ、皿に盛り付けられたものを手掴みで取り、食べながらあまりの美味しさに感動して泣いている。
その様子に愕然としていると、ふいに名前を呼ばれる。振り返ると龍水だった。皿に乗ったシュトーレンとフォークを側近のフランソワに手渡される。
A「……ありがとう」
ﾌﾗﾝｿﾜ「いえ」
数千年ぶりに食べたフランソワの料理はこの石の世界だとしても腕前は変わらず。
ﾌﾗﾝｿﾜ「欲しい＝正義です！！」
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作者名：Saki | 作成日時：2022年12月15日 13時
