バッテン ページ14
時刻は卯の下刻(七時)が過ぎた頃、簡単に身仕度を済ませた私は、一人、廊下を歩いていた。
鶴丸は居ない、戦場衣のままで有ることと脱ぎ捨てられた足袋やら置きっぱなしの飾りを片付ける為に一旦部屋に戻っている。
なので一人だ。
久しぶりに一人で歩く廊下はやけに静かで耐え難い。隣の存在が愛しくなった。
「あるじさま!!きょうこそぼくのとなりですよ!」
気付けば線を越えていた。
短刀たちに囲まれ、この中でも今剣は小さな体で私を抱き付いては、甘えたな声でねだる。
これは、珍しく誰にも譲るつもりが無いときの行動だ。とても微笑ましいが、今朝のことがある。
私は、ゆっくりと言い聞かせるように聞いた。
『バッテンした刀派はどうなるか知ってるか』
「はい」
直ぐに手を上げたのは一振り目の前田藤四郎だった。
「バッテンした者は、地面で犬のご飯を食べ、同刀派は一日主の近くには来てはならないのですよね?」
そして、出来得る限り視界には入らない。
私が一振り目の前田に微笑んでそうだよと言うと先程まで抱きついていた今剣は青い顔をして後退ると素早く、だが足音を立てずに駆けていった。
きっと誰が失態を犯したのか聞きだしに行くのか、私たちよりもよっぽど荒っぽい神様だこと。
私が興味を失くしたように前を向けば前田が正面に立っている。
周りの短刀は海が割るように避けている。
「主君、今日は、僕でよろしいですか?」
手を差し伸べる前田は少し背伸びをしており、少しでも格好いいと思わせようとしていた。
『ええ、良いですよ』
私が手を取れば嬉しそうに慎ましく笑うのだった。
幼く見えている神は何百年と生きている。
子供ではないが大人でもない、守り刀である彼らの方がよっぽどと常々思う。
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作者名:サナガラ x他1人 | 作成日時:2019年1月12日 2時