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沖「...すぐに、治まる、から...!」
沖田の口ぶりは、まるで今まで何度もこの苦しみを経験しているように聞こえた。
貴「...沖田」
これは...吸血衝動だ。
貴「血が、欲しいのか?」
沖「欲しくなんかない!」
沖田は怒鳴るように即答した。
沖「...僕は、嫌だ。嫌なんだよ。血は要らない、狂いたくない...!」
貴「でも、苦しいんだろ...?」
沖「自分を、理性を失ったら、僕は近藤さんやA君を守れなくなる!」
貴「あ...。」
沖田は戦うために変若水を飲んだ。
彼の願いは局長や俺を守ること。
血に狂ってしまえば、残る自分を失ってしまえば、唯一の願いすら果たせなくなる。
だから...
貴「ずっと耐えていたの...?」
ひとりで、誰にも言わず。
まともに息もできないくらいの苦痛を、耐え続けたの...?
沖「大丈夫だよ。発作くらい我慢できる。僕はこんなものに負けるほど弱くない。」
貴「...全然、大丈夫そうに見えないよ...!」
俺はどうすればいいの?
薫『鬼の血を与えればいいんだよ。』
あの言葉を信用したわけではない。
でも俺が血を与えることで、沖田の苦痛が和らぐならためらう理由は何一つない。
俺は刀で自分の腕を切った。
貴「っ...!」
鈍い傷みが走り、真っ赤な血が滴る。
沖「A君、なにをー」
貴「飲んで。」
驚きに目を見開いた彼の前に腕を差し出す。
貴「俺は鬼だから、こんな傷すぐ治る。俺、沖田の助けになりたい。だから...」
沖「...ごめん。」
沖田は俺の腕をとり、傷に障らないよう慎重に血を舐めとった。
沖「...ありがとう、A君。」
苦しげに俯く沖田。
まだ少し顔色が悪いけど、発作は落ち着いたみたい。
髪や瞳も元通りの色に戻り始める。
貴「...今日はもう休んで。」
沖田は頷くと素直に布団に潜り込んだ。
貴「沖田...。」
彼の気持ちを思うと胸がきしむようだ。
でも、彼の苦痛は和らいだ。
その事実が何よりも嬉しかった。
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作者名:咲耶 | 作成日時:2017年4月10日 17時