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36.桜が咲く季節に、また ページ47

・A





春の桜が咲き始めた。花見をする人々で溢れていて、夜になっても夜桜を見に来る人で、街は眠ることが無い。





地元で桜が咲くのはもう少し後だけど、こちらでは地元よりも早く桜を見る事になる。だけど、私は桜を見ると事故で亡くなった母を思い出してしまう。





愛情表現が苦手で少し不器用な父、優しくて人の為なら自分が犠牲になる様な母。母との記憶の最後は小学校低学年の頃だけど、未だにたくさんの思い出を覚えている。





花が好きだった。動物も好きだった。料理も裁縫も好きだった。虫は私と同じで苦手で、虫が出ると一緒になって騒いでたっけ。





『見てA、桜が咲いてるよ』





母は見知らぬ子どもを守って亡くなった。赤信号で飛び出した私と同じくらいの子どもを守ったという。





低学年の頃は分からなかった。でも、だんだん分かる様になってきた時、どうして母が亡くなってしまったのかと、思う様になる。思いたくない感情も、憎しみも悲しみだって生まれる。





私よりも早くに理解していた兄は、私の前で1度だけ泣いた。でもその後兄は私の前でも響の前でも泣くことなく、兄は私たちを守ってくれていた。





父は私達に苦労させまいと、働いて働いて働き続けた。家庭を振り返らなかった人なんかじゃない、むしろ家庭を守るのに必死だったのだろう。






私はどうだっただろうか。










「A、来てくれてありがとな。きっとお母さんも喜んでる」



「来るのは当たり前だよ、毎年のことなんだから。それより、兄さんは大丈夫なの? 最近仕事忙しい見たいだけど」



「大丈夫、Aも大変だろ、ゲーム実況とこっちの仕事両立するの。まぁ、俺がAに手伝ってって言ったんだけどな」



「手伝える分野だったからね(笑) そろそろ帰るね、あっちから買ってきたお菓子美味しいから食べてね」




兄に背を向けて歩き出した時、風が吹いて桜の花びらが雨の様に降ってきた。




「A!」



「ん? どうしたの」



「無理だけはするなよ」




顔バレした時、夜中に兄さんから電話がかかってきた。仕事で忙しいだろうに、心配してかけてくるあたり兄らしい。





「うん、ありがとう。大丈夫だよ、キヨさん達もいるから」



「そうか……あいつらによろしく言っといて」



「わかった、じゃあまた来るね」





兄に背を向ける度に、上京した時を思い出す。





あの時、後ろを振り向けなかったな。

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作者名: x他1人 | 作成日時:2019年5月19日 18時

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