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森「アテが外れたとは、どういう意味かな」
森はたしなめるように眉をひそめてみせた。
森「アテが外れてなんかいない。
君と私とで、みごとに作戦を遂行してみせたじゃあないか。
一年前に。大変だったから、もう二度とやりたくないけれどね」
太宰「作戦は完了してない」
太宰は冷たい目をして云った。
太宰「作戦っていうのは、暗殺と遺言捏造に関わった人間の
森の内側で感情が激しく波打った。
森「……君は…...」
少年の視線が、静かに森を貫いてくる。
まるで人体内を透視する医療機器のように。
太宰「その点、僕は共犯者としては適任だった。だって、誰も疑わないから。
僕の証言で貴方が次の首領になった後──
医師と少年は、しばらくの間、無言の視線を交わし合った。
死神と獄卒が睨み合っているかのような瘴気が部屋に満ちた。
森の頭の中で、何度目になるか判らない単語が警報のように反響した。
おまえは計算違いをした。
最適解を読み損ねたのだ。
この子供を共犯者に選ぶべきではなかったのだ。
太宰は底が知れない。
彼が時折見せる、悪夢めいた思考の鋭さ。観察眼。
マフィアという鬼の巣の中にあって尚例のない、凍える怜悧さ。
太宰「......なんてね。適当な思いつきを云って偉い人を困らせるのは楽しい。
最近の娯楽です」
太宰は急にぼやっとした顔に戻って云った。
森はそんな太宰を黙って観察した。
鋭いかと思えば、すぐにその怜悧さを消す。
何もかも見通しているように見えた直後には、意味不明で、理解不能な自'殺嗜癖で周囲を煙に巻く。
首領のなるまで想像だにしなかったことだが、彼の言動はある人物を想起させた。
森「君に似た人を知っている」
森は思わず云った。
太宰「誰？」
首をかしげる太宰の質問には答えず、森は小さく微笑んだ。
森「兎に角、大人をからかうのはやめなさい。
私が君を口封じ？そんなわけがないだろう。
第一、私がその心算なら、とっくにやってる。
呼吸より簡単にね。
私が今年に入ってから何度君の自'殺を阻止したと思ってる？
大変なのだよ、あれ。
一度なんか椅子の下の爆弾を解除するために、
映画の主人公みたいなことまでしたのだよ？」
太宰に死なれる訳にはいかない。
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